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キャリアショックに負けない50代社員の活用とメンタルタフネス強化策50代ミドルを輝かせるキャリア開発支援(2/3 ページ)

肩書が無くなり、給与がダウンする中で、人は自分を守るために「心の固さ」を増す。前向きな組織にするためには心の固さを解きほぐし、強い心を培う必要がある。

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「よい我慢」と「悪い我慢」=自分を生かす「自己活用能力」を芽生えさせる必要性

 50代のキャリアショックへの支援は、一時的な気持ちの「落ち込み回復」段階から、その後、組織と仕事にうまく馴染み、生き生き働く実感を取戻す段階まで続く。気持ちを切替え、変化に適合し、生き生きやれるからこそ、少々の困難やストレスも克服できる。この間は、会社への不満も高まり、相応の我慢も必要とされる時期だ。

 神戸大学の金井壽宏教授によると、我慢にも「良い我慢」と「悪い我慢」があるそうだ。悪い我慢は、先の展望も無くただ耐えているだけの我慢、良い我慢は、その先に自分が生かせ、何かを得るための我慢だという。先のY氏のように、現実の変化を半ば受け容れながらも、自分生かす機会として受け止められないと、長期間無用なストレスを溜め込み、仕事にも情熱が湧かない。これは悪い我慢だろう。

 一方、同じ50代でもキャリアショックに直面しながら、早期にこれを乗り越え、自分らしく仕事をやっている人も多い。その人たちにも相応の我慢はあるはずだが、いつの間にかそれを乗り越え、組織の一員として生き生き働いている。同じ環境変化に遭遇しても、その後の適応結果は大いに違う。うまくいく人には、何か違った能力が備わっているように思える。

 筆者は、この環境適応能力として、次の2つの大きな能力要素があると考えている。ひとつは、「ふだん仕事を遂行していく上で培ってきた経験や仕事能力」、もう一つは、「新たな環境に移ったときに自分をうまく組織で活用することができる自己活用能力」だ。キャリアチェンジのときに大切なのはまず後者の自己活用能力だろう。初期適応がうまくいってこそ、本来の専門性活用が生きてくるからだ。

 端的にいうと、キャリアショックの現実に直面したとき、多くの方は、自己保存・自己防衛といった「自己中心」的な考え方や行動に陥ってしまう。肩書き・地位・権限・収入のダウンの中で、自己の値打ちを失うまいと焦り、自分の経験や専門性に固執する人も多い。だが、この先自分を使ってくれる組織や人は、その組織の目的のために自分を使ってくれるのだ。

 求められるのは、新たに自分を使う人や仲間になってくれる人のために、自分は何をなすべきかを考える「他者中心」的な意識や行動だ。先に「自分の強みを活用してくれ」という人ではない。仕事の専門性が同じなら、どちらの方が使いやすいかは一目瞭然だろう。キャリアチェンジを伴う異動の支援には、この他者中心的な「自己活用能力」を芽生えさせておくことが大切ではないだろうか。

「自己活用能力」=その能力イメージとスキルの開発

 ここで自己活用能力の概念について触れておこう。この「自己活用能力」の本質は、自分本位の姿勢を後ろに引っ込め、組織本位・他者本意の働き方を実践する、「高度なヒューマンスキル」だ。その能力は、図表2に見るように、自己の組織適合について「考える能力」(環境理解力、自己理解力、自己省察力で構成)と、実際の組織で自らが他者に「働きかける能力」(ネットワーク構築力、組織協働力、自己向上力)の、2つの力の分野から構成されているのではないだろうか。

 この能力は“ヒューマンスキルの達人”のレベルように見えるが、そうではない。例えば「管理者=使う者」から、「プレーヤー=使われる者」として、立場が変わったことを意識すれば、自己理解とあわせ次に何をなすべきかが分かるだろう。この能力は現実の組織や上司・部下の様子をみながら、自分の出番を上手に作り出す能力と言ってよい。


図表2:50代の「自己活用能力」の構成イメージ

 また自己活用能力は、長年のキャリアが培ったノウハウの塊である「結晶性の知能の発揮」という見方もできる。この知能の発揮は、次のような感覚や行動が自然にできる能力であろうか。

 ・キャリアの山登りの頂上付近から、緩やかに下山し始めながら、所どころで楽しむ感覚

 ・肩書きや地位の変化に対し、自己調整ができており、組織協調・協働的生き方ができる

 ・自分の何が組織のために役に立つかを心得ており、他者と無用なあつれきを生まない

 ・立場をわきまえ、年下の上司をうまく盛り立て、陰の支援や「脇役」に徹することができる

 ・会議では、自分がしゃべるより、人に話させながら、議論をうまくまとめていく

 ・人の話をよく聴き、誰かれとなく相談に乗ったり、困っている人の面倒をみる

 その習得は、キャリアデザイン研修やワークショップでその必要性とスキルを学ぶこと。あとは職場実践の繰り返しで高められる。意識的に実践しているうちに、気付きが生まれ、体得されるものだ。さらには年度の上司面談で、上司側の期待や激励があれば、自己活用能力の開発は加速されるだろう。

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