生産拠点としてのアジア新興国戦略(後編):女流コンサルタント、アジアを歩く(2/3 ページ)
前回の記事では、中国に依存してきた経緯を振り返りながら、「チャイナリスク」とその回避策としての「チャイナ+1」を改めて考察した。そして、アジア新興国にチャイナ+1を求めるとき、やはり、日本企業が求める「品質」が1つの大きなテーマになるようだということが分かった。その点を踏まえ、日本企業は、生産拠点としてのアジア新興国に対して、どのような戦略でアプローチすべきなのだろうか。前稿に引き続き、アパレル産業を通じて考察する。
品質と価格競争力のバランス
品質と価格競争力についても、品質と供給確保の議論と同様に、その双方を満たすことも考えられる。先述のファーストリテイリングのユニクロ事業は、品質と供給確保のみならず、価格競争力も得ているわけだが、やはり日本の多くのアパレル企業にとっては、これを模倣することなどかなわない。そこで、ここでも品質と価格競争力のバランスという前提で検討する。
単純に言えば、要求する品質レベルを下げれば、コストも下がり、価格競争力が上がる。生産拠点としてのアジア新興国の魅力は、やはり労働賃金の安さであるとするなら、生地や素材の品質を下げ、縫製や裁断などの作業を簡素化することで、さらに価格競争力を増すことができるだろう。しかし、ここで考えるべき点が2つある。
1つは、上記のような製造の実働や原材料に係るコスト以上に、実際には、検品などのプロセスや日本の流通形態にコスト増加要因が存在していることである。例えば、日本のアパレル産業における標準的な検品作業は、各プロセスの出荷時と受入時に存在しているが、品質レベルを下げてでも価格競争力を追求するのであれば、当然、ここにもメスを入れ、スループットの向上とコスト削減を図る必要があろう。
もう1つは、価格競争力で戦いを挑むのであれば、H&MやFOREVER21といった海外のファストファッション企業に対抗して、デザイン工程期間の短縮、リードタイムの短縮、商品投入サイクルの短縮を図ることも考慮し、彼らを上回る特性を備えなければならない。
つまり、アジア新興国を生産拠点とし、品質レベルを下げて、コスト削減を図るだけでは、競争力を備えることにはならない。品質レベルを下げて価格競争力を上げるというバランスを採る場合には、この点を十分に認識しておく必要があるだろう。
同様のことは、逆のバランス、すなわち、高い品質を求め、価格競争力を諦めるというバランスの仕方でも現われる。アジア新興国に生産拠点を構えることで、世界の地域相対性で言えば、比較的安価に製造できるというメリットが得られるのは事実であるが、世界の多くの企業がアジア新興国で製造を進めている中で、高い品質を求めるということは、価格競争力は当然望むことはできず、圧倒的に高い品質を極め、そこに差別化要素を見い出すか、まったく別の差別化要素を見い出す他はない。前者は、過剰品質の極みに陥る公算が高く、これが差別化要素となって商品が売れることはないだろう。やはり、差別化要素は別のところに求めることになる。
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