「子供が親の思う通りに育つとは限らない。会社も同じ。今後を作り上げるのはスタッフと顧客」――ライフネット生命保険株式会社 出口治明社長:トークライブ“経営者の条件”(2/3 ページ)
外交員を持たないネット生保として2008年に開業、スタートした、戦後初の独立系生保ベンチャー、ライフネット生命保険株式会社。同社を立ち上げ、経営するのは還暦の社長、出口治明氏だ。長年の大手生保勤務経験を通じ、独自の歴史観で培ってきた考えを、「宝くじに当たったような」機会から現実のものにしたという。
「ゼロからの発想」を重視して業界未経験者も積極採用
役員や社員の採用・登用にも、出口氏のこだわりがある。マニフェストには「学歴フリー、年齢フリー、国籍フリーで人材を採用する」とうたった。
「当社のスタッフは約70名。この人数で、内勤だけでも数万人という大手と勝負しなければならない。情報も全て開示しているので、他社が真似しようと思えばすぐにできてしまい、差別化要因もない。だから人材は非常に重要。スタッフ皆が知恵を絞らなければいけない」(出口氏)
知恵を働かせる上で重要なのは、既存の枠組みに囚われない「ゼロからの発想」ができること。そのため、保険業界での経験が求められる査定業務など一部を除き、保険業界を知らない未経験者も積極的に採用している。その数は社員の半数あまりにのぼるという。もちろんスタッフの人数が少ないので、人と同じことしかできない人材では無理だ。自分の頭で考え、自発的に動ける人材でなければならない。
発想を重視する点は、役員も例に漏れない。副社長の岩瀬氏はもちろん、主に営業とマーケティングを担当する中田華寿子常務も生保業界未経験だった。岩瀬氏は1976年生まれ、出口氏と谷家氏が出会ったときにはハーバード経営大学院に在学中だったが、谷家氏は岩瀬氏の能力を見込んで副社長に推薦した。有能な若手経営者として、出口氏を支える立場だ。
中田華寿子氏はスターバックス コーヒー ジャパンでマーケティングを担当し、日本にスターバックスを広めた女性である。出口氏によれば、中田氏は面談の際、「ネット生保もBtoCという点ではスターバックスと同じ」と語り、生保業界に挑戦する意欲を見せたという。因みに、中田氏は、わが国の生保47社の中で、唯一の女性常勤取締役でもある。
「会社の今後を作るのはスタッフと顧客」
ライフネットは開業から3年も経たぬ2011年3月に保有契約で6万契約を突破し、相当な勢いで伸びているとはいうものの、日本国内の生保市場は人口そのもので、保有契約は約1億だ。まだまだシェアは小さい。社長である出口氏自身も、「辻説法(講演)」に奔走している。自ら講演やインタビューなどで積極的に露出し、さらに数多くの著書を執筆して、その理念を広めていこうという作戦だ。
「サイトを訪れる顧客のほとんどは、検索結果からの訪問。著書や講演などで興味を持ってくれているのだと思う。それから、『大きな名刺』を常に持ち歩き、開業以来、会う人全てに渡している。路上でティッシュを配っている人にも渡す(笑)」(出口氏)
「大きな名刺」は、普通の名刺の3倍近い大きさのカードに、社の理念や概要を印刷したものだ。その反響として、若い人たちから会社に「大きな名刺を送ってください。もっと配りたいので」といった内容のツイッターやメールが届いたりすることもあるという。
「そうすると社員たちはものすごく喜ぶ。70人のスタッフが、そういう気持ちでやっていけるように、と考えている。大手の物量に対抗するにはブランドを確立することが重要。過去のベンチャーが大手との競合を生き残ってこれたのは、サポーターとなってくれる顧客がいてくれたからではないだろうか。本を書いたり辻説法をするのは、そうしたサポーターを増やしたいから」と語る出口氏。
「ライフネットの将来については、100年は続いてほしいし、将来的には世界に出ていってほしい。ネット生保として開業したのも、ゼロから始めるための戦略であり、ゆくゆくは総合的な保険会社になりたいと考えている。とはいえ、会社は子供のようなもの。子供が親の思う通りに育つとは限らないのと同じで、ライフネットの今後を作り上げるのは若いスタッフと顧客だ。インターンで訪れたある学生は、『ライフネットでは、社長・副社長の影が薄く、女性と若い人たちが引っ張っているような印象を受けた』と言っていた。だから、私は将来を全く心配していない」(出口氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.