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震災/原発対策に戦略がない、では戦略とは?生き残れない経営(2/3 ページ)

マスコミ報道から知らされる東日本大震災復興、福島原発事故対策に対する政府・与野党・東電の考え方や行動には、誠に残念ながら「戦略」のカケラも見られない。

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共通する優位な定義

 「戦略」については、対象となるテーマ、時代背景、主観的状況などで、必ずしも一律に定義できないところがある。しかし有意な定義の根底には、共通するものが流れている。

 次に挙げる2例の主張についても、根底には共通するものが見えている。

 一例として、「戦略」について大前研一は、その著「企業参謀」(プレジデント社)で次のように定義する。「一見混然一体となっていたり、常識というパッケージに包まれていたりする事象を分析し、ものの本質に基づいてバラバラにしたうえでそれぞれのもつ意味あいを自分にとって最も有利となるように組み立てたうえで、攻勢に転じるやり方である。個々の要素の特質をよく理解したうえで、今度はもう一度人間の頭の極限を使って組み立てていく思考方法である。世の中の事象は、必ずしも線型ではないから、要素をつなぎ合わせていくときに最も頼りになるのは(システムアナリシスなどの方法論ではなく)、この世に存在する最も非線型的思考道具である人間の頭脳であるはずである。」

 もう1つの例として、非常に興味深い「戦略」の定義がある。楠木建 一橋大学大学院教授はその著「ストーリーとしての競争戦略」(東洋経済新報社)で、次のように定義する。「優れた戦略とは思わず人に話したくなるような面白いストーリーだ」。「“違いを作って、つなげる”、一言でいうとこれが戦略の本質です。この定義の前半部分は、競合他社との違いを意味しています。

 競争の中で業界水準以上の利益を上げることができるとしたら、それは競争他社との何らかの“違い”があるからです。」「もう一つの本質」は「“つながり”ということです。」「つながりとは、二つ以上の構成要素の間の因果論理を意味しています。因果論理とは、XとYをもたらす(可能にする、促進する、強化する)理由を説明するものです。個別の違いをバラバラに打ち出すだけでは戦略になりません。それらがつながり、組み合わさり、相互に作用」(シンセシス)する中で、長期利益が実現される、とする。

 ストーリーがないものは、戦略と言えない。日頃「戦略」として誤解されている主な典型例を、楠木教授の主張に従って示そう。これによって、「戦略」を理解する助けになる。

 (1)「アクションリスト」:情報量の多さ・分析の密度・正確さと、「戦略」とは別物。構成要素が全体としてどのように動き、その結果何が起こるのか、ストーリーのつながりと流れがさっぱり分からないのが、「アクションリスト」だ。

 (2)「法則」:一部の、特にアカデミックな戦略論は、法則性の定立を目指す。大量観察を通じてそのシステムの挙動に規則性を見出し、そこから法則を導き出そうとする。しかし、規則性はあくまで平均的傾向を示すもので、他社との違いを問題にする戦略と相容れない。

 (3)「テンプレート」:因果論理のメカニズムを解明するよりも、実務家がすぐ食いつくようなツールの開発に主眼を置く。戦略をその企業の文脈から無理に引き離し、テンプレートのマス目を埋めていくというアナリシスに変容し、ストリートしての動きを失う。

 (4)「ベストプラクティス」:成功事例の最も目立つ部分に注目し、そこから教訓を引き出そうとするので、「違いを作る」/「シンセシス」という戦略の2つの本質に逆行する。

 優れた「戦略」では、戦略を構成する要素がかみあって、全体としてゴールに向かって動いていくイメージが、「動画」のように見えてくる。全体の動きと流れが生き生きと浮かび上がってくる。これが「ストーリーがある」というのだと、楠木建教授の主張だ。

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