「ITを業務の一部に組み込むことで競争優位を確立せよ」――早稲田大学、根来教授:ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/2 ページ)
企業の競争力はさまざまな要素が複雑に絡み合っているために、ITと競争優位との関係を明確に示すことは難しい。とはいえ、ITはもはや企業に欠かせない存在であることも事実。根来氏によると、そこでのポイントは、ITがコア業務に埋め込まれているか否かだという。
ITは競争優位にどう貢献するのか?
情報システムと企業の競争力との関係を明確に示すことは難しいとされる。競争優位性はITに加え、人、モノ、金に関するさまざまな要素の集積によって確立されるからだ。とはいえ、企業が他社との差別化を図る上で、ITは欠かせない存在であることは紛れもない事実である。早稲田大学ビジネススクールディレクターの根来龍之教授は、3月3日に開催された「第20回 ITmediaエグゼクティブセミナー」の特別講演で、3社の事例を基にITと競争優位の関係性について自身の考えを明らかにした。
まず根来氏が取り上げたのが、人材派遣大手のスタッフサービスである。1981年に創業した同社は、当初から技術者派遣や再就職支援などの収益性の高い事業をあえて手掛けず事務職派遣に特化。その背景には、人材派遣業は派遣スタッフが競合他社にも登録することが多く、派遣スタッフのスキルで他社と差別化することが困難という事情があった。
対して、事務職派遣に特化すれば経営リソースの集中投下によって早期の成長を見込め、その結果、企業の信頼感が増し、より多くの派遣スタッフの登録が期待され、また、各種の媒体を使った大規模な宣伝活動も行えるようになる。事実、この戦略は奏功し、2007年には人材派遣市場の12.5%のシェアを握るまでに成長を遂げている(その後、リクルートのグループ企業となった)。
そんな同社が事業を行うにあたって最も重視したのが「スピード」である。問い合わせを受けてから25分以内に営業スタッフが客先を訪問し、2時間以内に派遣スタッフの選定を完了する仕組を、PDAとSFAパッケージ、派遣スタッフの情報を格納するデータベースによって整備したのもまさにそのためである。
システムと業務の全体でいかに差別化を図るか
ここで注目されるのが、個々の情報システム自体の模倣困難性は低く、同様の情報システムは他社でも容易に整備できるであろうことである。だが、根来氏は「同社のビジネスシステム全体をまねるとなることは、極めて難しい。その理由は、ビジネスシステムの構成要素間の相互関係が極めて強いことにある」と強調した。
例えば、SFAと2時間以内での派遣スタッフの選定という2つの要素は、互いに強い関係性を持っているという。事実、2時間以内に人選を完了するには、できるかぎり早く営業スタッフが顧客の要望を把握し、効率的に選定を行うことが不可欠だ。そして、その実現はPDAを用いたSFAへの顧客ニーズの迅速な入力と、センターでの「求人と登録スタッフとの曖昧な条件に基づくマッチング」システムと運営ノウハウによって支えられている。
「これらの要素の1つが欠けた場合には、2時間以内の選定は到底できない。各要素の模倣は容易でも、全体の模倣が困難であったからこそ、スタッフサービスは他社と明確な差別化を図ることができた。その実現にあたり事務職派遣に絞って事業を展開したことで、差別化ポイントとそれを追求する仕組を単純化できたこともプラスに働いた」(根来氏)
根来氏は『CIOのための経営情報戦略』(発行/中央経済社)の中で、企業の差別化につながるビジネスシステムについて、「資源レイヤー」、「活動レイヤー」、「差別化レイヤー」から成る3層で論じている。この著書で根来氏は、企業の差別化は企業活動と保有資源との組み合わせ=仕組によって実現されると説く。
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