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「ITを業務の一部に組み込むことで競争優位を確立せよ」――早稲田大学、根来教授ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/2 ページ)

企業の競争力はさまざまな要素が複雑に絡み合っているために、ITと競争優位との関係を明確に示すことは難しい。とはいえ、ITはもはや企業に欠かせない存在であることも事実。根来氏によると、そこでのポイントは、ITがコア業務に埋め込まれているか否かだという。

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セブン-イレブンの強さの源泉は絶え間ないシステム拡張

 その検証のために根来氏が提示したのが、100円ショップを展開する大創産業の商品調達プロセスである。同社の差別化ポイントは「100円とは思えない商品を100円で販売すること」により、消費者の購買意欲を他社より強く刺激できることにある。

 「大創産業はその実現のため、大規模なロットで商品を一括調達して調達コストの削減を図るとともに、同社の規模では巨大すぎるほどの倉庫を商品保管のために整備した」(根来氏)

 つまり、大規模調達という企業活動と、巨大倉庫という保有資源の組み合わせが同社の競争力の源泉となっているわけだ。

 根来氏が最後に挙げた企業が、コンビニエンスストア最大手のセブン-イレブン・ジャパンだ。同社はITを活用した情報武装によって、高い収益性を実現した企業として広く知られる存在だ。事実、「同社の1店舗当たりの平均日次売上高は、他のコンビニと比較し10万円以上も高い」(根来氏)

 ただし、1978年から整備を進めてきた同社の情報システムは、今では第6次総合情報システムにまで進化を遂げる一方で、すべての経営指標が一貫して改善され続けてきたわけではないという。例えば、平均在庫日数は90年代初頭まで急激に短期化が進み、また、日販も第3次システムまでは右肩上がりに伸びてきた。だが、それ以降、それらの数値はほぼ横ばいを続けている。こうした中、粗利益率だけは絶えず向上し続けてきた。

 では、これはなぜなのか。その理由は、各種の経営指標の改善に貢献する仕組とその重要な部分としてのITが段階的に整備されてきたことにあるという。

「初期段階で在庫回転率と日次の売り上げ向上に大きく寄与したのが、多頻度小口配送を実現する共同配送と、電子発注の実現であった。そのために、2008年にはターミナル7と呼ばれる電子発注端末をいち早く導入。迅速かつ伝達ミスなく発注できる環境を整えた。ここで留意したいのが、ITは各種の業務の仕組に埋め込まれていること。ITだけで競争力を強化できたわけではない」(根来氏)

今でも進化を続けるセブン-イレブンの情報システム

 ある仕組が安定的に確立すれば、それ以上の業務改善効果を見込むことは難しい。そこで、同社はさらなる利益の拡大に向け、矢継ぎ早に新たな仕組とそれを可能にするITの導入に動いてきた。まず、第3次システムでは分析型の発注を実現すべく、POSレジを新たに採用。バックヤードのストアコンピュータや検品用のスキャナーなどと情報連携を図ることで、品切れロスなどを容易に把握できる仕組を整えた。

 もっとも、発注を店舗に一任していては、過去の経験に引きずられ、発注精度の高度化を短期に実現することは難しい。その点を考慮し、同社のフィールドカウンセラーが店舗に対して発注方法の指導を行うなど、側面からの支援にも配慮を払った。

 また、第5次システムでは、過去の発注履歴や関連情報を格納するデータウェアハウスを整備。これにより、発注や売り上げなどを時系列で追うことが可能になり、発注精度のさらなる向上も実現した。加えて、この頃からチームMD(マーチャンダイジング)による自社商品の開発に着手し、このことも粗利の向上に確実に寄与した。

 「セブン-イレブンが扱う情報は商品の在庫数や店舗における商品の位置とフェース数、さらに、自社商品の生産管理にまつわる情報など極めて多岐にわたる。これらを業務の一部に組み込むかたちで活用し、いわばITを差別化システムの一部として用いることで、同社は競争優位を確立していると言える」(根来氏)

 同社のシステムは現在、さらなる進化を遂げている。コンビニエンスストアの出店が増え、店舗間競争が激化していることを背景に、店舗の立地や商圏を分析するためのシステムも整備。また、衛星通信とISDNを統合した従来のネットワーク環境を光ファイバー網に統合するとともに、店内LANの無線化によって、ストアコンピュータが設置されたバックヤードに加え、売場での商品情報やPOS情報の参照を実現した。のみならず、店舗ネットワークを活用した料金収納代行や銀行業務にも乗り出すことで、収益の裾野も着実に拡大させている。

 自社の業務を見直し、他社との差別化につながる自社の仕組=活動+資源を見極めることが、競争優位を確立するための鍵となりそうだ。

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