上司は部下の盾になっているか〜その2:生き残れない経営(1/2 ページ)
実に皮肉なことだが部下の「盾」となる前に考えて欲しいことがある。自分が権限を振り回していないか? まずは上司がとしての自分が自分自信の「盾」になれということだ。
企業人としての本来の業務、あるいは創造的な業務をディスターブされた時、上司はその「盾」になり、ディスターブから部下を断固として守るべきではないか。
ロバートI.サットン スタンフォード大学教授は、「優れたボスは“人間の盾”となることに誇りを感じ」、「部下を働きにくくするような愚か者や余計な口出しと闘うのである。」と主張する(「Diamond Harvard Business Review」2011.2.)。
しかし、企業内外の幹部研修会では、テーマとして企業戦略の立て方やB/S、P/Lの読み方などを取り上げるが、部下の「盾」について取り上げるケースをついぞ見たことはない。OJTでも、同様に見かけない。しかし、企業にはディスターブされて本来業務に支障をきたす例が多く、それらの事例からそのインベーダーのほとんどが社内にいることが分かる。前回は以上を検討した。今回は、上司が「盾」となる心構えや方法論を取り上げる。
R.I.サットン教授が挙げる「ボスとして部下を守るための方法」は、方法と目的が混同表現されている箇所があるように思われて必ずしもすべてが妥当と解釈できないが、一部を参考にしながら上司が部下の「盾」になる心構えと、それを実行する方法について検討する。
1、心構え
まず、上司(経営者、幹部、管理者)が部下の「盾」になるべき心構えについてだ。
(1)権限を振り回すな
(2)努めて経営能力を高めろ
(3)ディスターブを気づかせる役を買って出よ
(4)叱責や批判の矢面に立て
(5)どの部署も自己責任を全うする研さんと努力を怠らないように指導せよ
実に皮肉なことだが、(1)、(2)は上司が自分で自分自身の「盾」になれということになる。
(1)権限を振り回すな
ただ、ここで十分注意すべきことは、往々にして上司本人が権限を振り回しているという認識がないことだ。上司は、管理者の任務の一つと考えて、あるいは部下を手助けしていると考えて、さらには全く何も考えずにまるで呼吸をする感覚で、部下の業務に口出しをし、立ち入ることが、実は権限を振り回し、部下をディスターブすることになり得るのだということに気づき、考えを改めなければならない。
中堅の某産業機器メーカーの製造拠点長は、部下に宿題(しかも不採算機種のOEM調達や製造工程自動化など大きなテーマ)を与えるが、細かな口出しは一切せず、部下が行き詰っている様子の時だけ声をかけた。製造拠点全体のモラールは極めて高い。
(2)努めて経営能力を高めろ
世の上司は、マネジメント力やリーダーシップ力を情けないほど知らないし、身につけていない。それは、深刻だ。だから、社の方針や上の指示を単なる伝達役としてしか流せないし、権限を無意味に振り回すことにもなる。上司は、まず経営能力を高めるのがノルマだという意識を強く持ち、そして必死に学ばなければならない。
大手の某機械メーカーの設計部長は、日頃から読書もし、同僚や部下と好んで議論を心がけていた。業務方針も明確だった。部長会議などあると、通常の部長は人員を減らせ、残業を減らせなどというトップ指示をそのまま持ち帰って部下に強く実行を迫るが、その部長はトップ指示をそのまま流さない。それだけ、自分の運営に自信があった。部下は、部長会議のトップ指示を他部から聞いて知るほどだった。
(3)ディスターブを気づかせる役を買って出よ
部下をディスターブするインベーダーは種類も数も多く、難敵もいる。上司は臆せず、敢然と彼らに立ち向かい、部下をディスターブしていることをズバリ指摘し、納得させ、そして重要なことは、結果を強力にフォローアップしなければならない。
・上からの理不尽な指示に抵抗せよ
例えトップだろうが経営陣だろうが、部下をディスターブする上からの理不尽な指示に対しては、敢然と申し入れなければならない。某中堅企業のトップが、ある時部長に週報を書くよう指示した。某取締役はトップに申し出た。「わずか数百人の企業。情報を得たければトップが現場に出向くべき。週報を書かせると、部長達はその時間と神経を浪費するし、当たり障りのない表面的な情報しか集まらない」と。トップは納得して、引き下がった。
・会議主催者に、会議の効率を考えるよう申し出よ
形式的な会議やあまり意味のない膨大な資料作成を止めさせるため、会議効率を下げる当事者に直訴・説得をする。相手が大物の場合は、それなりの覚悟と、勝ち目のある説得の準備を要する。某中堅企業の総務部長は、事業戦略的会議がいくつも重なり、その会議の膨大な資料作成に多くの人手と時間を要しており、従って効率化すべきことをトップに進言したが、一蹴された。しかも、その部長はトップからの印象を損ねた。進言するからには、困っている具体例や納得させ得る代替案を用意した上、周到な準備をし、勝ち目を予想できる段階で説得に出るべきだ。いくら敢然と立ち向かっても、敗れては意味がない。
・管理部門に、自分の都合を押し付けていることに気づかせよ
管理部門はどの企業でも人事や金の権限を握っているので、クレームをつけにくい。それを念頭に、彼らが自分の都合で会議や行事を行っている場合、それに気づかせ、改めさせるべきだ。但し、言いっ放しでなく代案を示すべきだ。
(4)叱責や批判の矢面に立て
部下をディスターブするインベーダーから守るには、それなりの覚悟を要する。時には、部下の過失の責任を負わなければならない場面もある。某大企業の副事業所長は、部下が言いにくい案件や、部下の過失について、進んで引き受けて単独で所長に説明した。一方、部下の功績は部下に直接説明に行かせた。また、社内外を問わず生産的でない面会者には、彼が担当者に代わって会った。副所長という責任の曖昧な職責だから、彼は意識して振舞ったかもしれないが、部下の信頼を集めた。
(5)どの部署も自己責任を全うする研さんと努力を怠らないように指導せよ
いずれの部署も他部署の時間を浪費させないように、自己責任を全うする研さんと努力を怠ってはならないし、上司はその教育を意識して行わなければならない。
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