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“覇気のない社員”“能力のない上司”がなぜ存在するか分かった生き残れない経営(1/2 ページ)

覇気がないと嘆くことは簡単だ。しかし彼らの多くは不幸にして力を発揮する機会を逃し、また力を発揮する機会の到来を待っている。それを引き出すのは上司の仕事だ。

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 某大企業のエリート社員A君、先日筆者に向かって神妙に呟いたものだ、「覇気のない社員の気持が分かった」「能力のない上司が出来上がる過程も目の前に見た」と。

 若い頃から常に前向き思考で積極的でエネルギッシュなA君は同期の中でも筆頭株の既に部長職、かねてから社内に見られる覇気のない社員たちを理解できないとして軽蔑し、能力のない上司を努力が足りないと蔑んでいた。そのA君の神妙な呟きの内容はこうだ。

 ある時、A君の上司が人事異動で交代した。新任のB事業部長はなぜか総務部という管理部門からの異例中の異例な異動だが、噂によるとトップの指示による異動らしい。新たに開発し、社内で大きな期待を寄せられる新製品の主要な販売先の1つが、企業や官公庁・公共団体の庶務担当部門だからのようだ。しかし、そこからA君の悩みが始まる。

 B事業部長は経験上無理もないことだが、事業計画立案、マーケッティングや営業手法、原価計算などについて、実務はもちろん概念も分からない。それにもかかわらず、学ぼうという姿勢が見えない。日常頻繁に使われる業務用語さえ、覚えようとしない。B事業部長の熱心な関心事は、関連部門との人的繋がりだ。何よりもA君にとって決定的だったことは、A君が不慣れなB事業部長を献身的にサポートしていたにもかかわらず、B事業部長は前任事業部長の懐刀と自他共に認めていたA君をほとんど無視し、最年長のC部長を重用したことだ。

 C部長は定年が近く、従来から無責任な言動で社内の不評を買っていた。これほど上司から軽視されたのは、A君にとって企業人生で初めてだった。A君は、B事業部長就任以来2年ほど耐えてきたが遂に切れた。気がついてみるとA君自身が従来軽蔑していたタイプの人間に成り下がっていた。

 近くにいる同期入社の課長職の男は批判や評論を立派に口にするが、体が動かない評論家だ。その他にも、上司の目の届く範囲で無難に仕事をこなすが目の届かない所では手を抜く狡猾な男、価値判断基準がもっぱら自己保身の惨めな男、常に責任を自分以外に押し付ける責任逃れ男、彼らの共通点は業務のことは一切念頭になく、己の存在にだけ関心があることだ。

 今のA君は陰でB事業部長を批判し、B事業部長の指示は的が外れているとして基本的に無視し、マイペースで業務をこなした。心身ともに力が抜けた感じだった。従来のA君には想像さえつかなかった姿勢だ。やっとA君は、覇気のない社員の気持が理解できたと思った。

 一方、B事業部長を観察するとダメ上司の構造がよく見えてきた。業務を覚えようとも学ぼうともしないのに、外面はよい。例えば、販売促進費は事業部と営業部門の間のせめぎあいで決まる。B事業部長はその経緯を知ろうともせず安請け合いをするものだから、「協力しましょう」「できるだけ援助しますよ」という曖昧な外交辞令を随所で口にし、販売促進費支出の約束をした、しないのトラブルが頻発した。A君は、尻拭いに随分苦労した。しかし人的関係重視のつもりか、B事業部長は会食や接待ゴルフに熱心だ。

 さりとて事業部内のモラールアップには無関心、部下の声を聞こうともしない、方針も見えない。当然部下から信頼は得られない。B事業部長は労務関係のテーマで学位を持っているというまたトップが世話になった人と血縁関係があるらしい。総務部門での力や実績は不明だが、事業部長に就任するや取締役に昇格、2年後の今回は常務取締役に内定だという。経営能力はなく、現職の実績は皆無なのに、やはりトップとのコネに加え、学位がトップの心象をよくしたのだとA君も周囲も疑っている。

 本人が勉強不足に努力不足、しかも実績もないにもかかわらず、噂されるトップとの関係から作り上げられる無能な上司を目の当たりにした……というA君の切々たる呟きだ。

 A君は、モラールを維持する動機の1つだった「地位」にはもうこだわらないことにした。ただただやり甲斐の出る人間関係の環境で従来の活気ある自分を取り戻したいとして、職場の異動を強く希望し、申請中だという。

 A君の呟きや経験から、多くのことを学ぶことができる。

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