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“覇気のない社員”“能力のない上司”がなぜ存在するか分かった生き残れない経営(2/2 ページ)

覇気がないと嘆くことは簡単だ。しかし彼らの多くは不幸にして力を発揮する機会を逃し、また力を発揮する機会の到来を待っている。それを引き出すのは上司の仕事だ。

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部下に力を発揮させるのは上司の仕事

 覇気のない人間たちには、本来の性格からか手の施しようもないケースはごくごく稀にあるだろうが、彼らの多くは不幸にして過去上司に殺されるか、力を発揮する機会をセッティングされずに、あるいはその機会を自ら逃し、不本意ながら企業人の末席を永く汚し続け、しかし一方で力を発揮する機会の到来を密かに欲し続けてきているに違いない。それを引き出すのは、上司の任務だ。

 一方、B事業部長の場合は極端な例かもしれないが似たような例は少なくないし、それが最も科学的にして近代的経営がなされているはずの大企業で見られるということは、中小企業では多くあり得る例だといえよう。こんなことで、上司の役を務められるわけがない。

 上司は自ら学ぶことが多い。担当事業・経営・リーダーシップ・あるいは人間などなどについて。そして、関係者の信頼を得なければならない。それは表面的ではなく、心底から得なければならない。その得られた信頼をベースに、部下に目標を明確に示し、部下に動機付けをし、志気を鼓舞し、持てる力を発揮させ、組織を活性化させなければならない。

 上司との人間関係で覇気を失ったA君にも、コネに乗っかるダメB事業部長にもお勧めなのは、「第8の習慣」(スティーブン・R・コヴィー著 キングベア出版)だ。ここに、まるでA君の経験を裏付けるような「組織の悲惨な状態」の調査結果がある。

質問 Yes%
上司は他者の潜在能力を見い出し、それを最大限に引き出す 9.6
私は上司に尊重され、評価されていると感じる 29.3
自分の才能と情熱を最大限に発揮できる役割に就いている 15.9
私のチームには明確に定義された目的とビジョンがある 30.5
私のチームには人が成長し、能力を開発する機会がある 28.2
部下を選んで信頼して仕事を任せる 32.3
組織の悲惨な状態(フランクリン・コヴィー・ジャパン調査 n=560 「プレジデント」2011.4.4.)

 以下、S.R.コヴィーの主張の概略を紹介する(分かりやすく紹介するために、多くを省略している)。上記のA君の経験やそれに対する筆者のコメントが、あたかもコヴィーの主張を裏付けているかのようだ。

 第8の習慣は、7つの習慣(注1)に付け加えるものではない。世界は大きく変化しており、新しい時代に求められるものは偉大さだ。別の言い方をすれば、情熱を持って実行すること、課題を達成すること、そして大いなる貢献が求められる。そのために新たなスキルやツールが必要になり、要するに新しい習慣を身につけなければならない。(注1:S.R.コヴィー著「7つの習慣 成功には原則があった」キングベア出版 1989年 1、主体性を発揮する、2、目的を持ってはじめる、3、重要事項を優先する、4、Win-Win を考える、5、理解してから理解される、6、相乗効果を発揮する、7、刃を研ぐ)

 企業には人間と同じ4つの側面があり、企業が社員のこの全人格型パラダイムを軽んじた時(即ち、1、精神について:低い信頼、2、知性について:ビジョンと価値観が共有されない、3、肉体について:バラバラな組織、4、情緒について:無力化)慢性的問題が生じる。

 この解毒剤として、

 1、模範になり、信頼を築く(精神)

 2、意義を見出し、方向性を示す(知性)

 3、組織を整える(肉体)

 4、エンパワーメントを進める(情緒)

が考えられ、これらがとりもなおさずリーダーの役割である。

 リーダーは、まず構成員の信頼を得なければならない。そして意義と価値ある貢献を見出し、ビジョンを明確にしなければならない。意思決定プロセスや人を育てるシステムを構築し、メンバーの力を解き放たなければならない。かくして組織は活性化し、リーダーは目的を達成できる。ここで、あくまでも「信頼」が中核をなす。

 ひるがえって前出のB事業部長の言動を改めてチェックした時、リーダーとしてのいずれの役割も満たしておらず、その結果として組織に慢性的問題が起きていること、A君はじめメンバーのモラールが著しく阻害されていることは当然といえる。

 誰かがB事業部長に注意を与え、己の非を気づかせなければならないが上司であるトップの眼鏡に色がついている。本人とて、仮にこの記事を読んだとしても自分のことだと気付くほど謙虚であるまい。解決の方法は、事業部のメンバーが一斉に反旗を翻すか、さもなくば次の人事異動まで待つしかない。その間にメンバーのモラールは落ち、覇気のないメンバーの潜在能力は放置され、事業は衰退していくだろう。それも彼ら企業としての自業自得、致し方ない。せめて私たちは、A君の経験とB事業部長の醜さを他山の石とすることだ。

著者プロフィール

増岡直二郎(ますおか なおじろう)

日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。

その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。



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