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ファシリテーター型リーダーの「巻き込み力」〜その5エグゼクティブのための人財育成塾(1/2 ページ)

関係するプレイヤーを巻き込むためには、時にはプロジェクトの目的とスコープの変更も必要となる。このような状況でプロジェクトリーダーはどのような行動をとり、何を考えるべきであろうか?

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 島田編集長は、情報システム室の中野室長を巻き込み、いよいよ豊かな生活社の電子書籍ビジネスへの取り組みプロジェクトを具体的な行動に移し始めた。まず2人が起こした行動は、社内の協力を得るためにキーとなる2人の編集長の巻き込みであった。しかしながら、2編集長からは前向きの協力を得る事ができない。協力を得るためには、プロジェクトの目的とスコープの変更も必要となる。さて、このような状況でプロジェクトリーダーはどのような行動をとり、何を考えるべきであろうか?(ファシリテーター型リーダーの「巻き込み力」〜その4

 島田編集長と中野室長は、相田編集長と峰岸編集長の反応も想定し、何とかして2人の協力を得られるように準備してミーティングを行った。2編集長の反応は思った通り今回の取り組みにあまり積極的ではなく、高杉社長の意向、今後の電子書籍の可能性に関しては相応の理解は得られたが、積極的な協力を得るまでには至らなかった。現在の状況下での2人のビジネス上の優先順位は、既存の雑誌・書籍のビジネスで読者層を広げることができる出版物への取り組み強化が最優先であり、まだ海のものとも山のものとも判断できない電子書籍に多くの工数はさけないと考えたていた。2編集長は、もし電子書籍に相応の工数を割いて取り組むのであれば、

  • 豊かな生活社がビジネスとして取り組むに値する具体的な領域と取り組み内容
  • 取り組みに必要な具体的なメンバーと必要な工数

を明示して欲しいと島田編集長と中野室長に伝えた。

 電子書籍ビジネスの現状調査を行った上で、ビジネスの優先順位と具体的な取り組み内容を決定しようと考えていた島田編集長と中野室長はこの2人の反応に当惑した。なぜなら、恐らく他の編集長からも同じような意見が出てくると思われるからであった。このまま強引にプロジェクトをスタートさせると、社内の積極的な協力を得る事は難しく、中途半端な活動になりかねない。そこで、島田編集長は高橋部長に相談してみることにした。

 高橋部長は島田編集長の話を聞き、「やはり、そういう反応だったか。では、具体的な取り組みの1案として学習塾のA社への提案を検討してみてはどうだろう。」と切り出した。A社は、小学生、中学生を対象として関東に約100の教室、5,000人の生徒を有する学習塾である。高橋部長は、以前A社に自然科学系の雑誌や図鑑を副読本として使ってもらえないか打診した事があった。

 当時は、学習塾のパソコン導入への関心が高い時期であり、使いやすいアプリケーションを開発してCD-ROMで提供してもらえれば検討するとの事であったが、コンテンツのソフト化に取り組んでいなかった豊かな生活社では対応が難しいという結論に至った。その後、A社は他社の提案を採用したことを高橋部長は聞いていた。今回は電子書籍での提案であり、A社で検討してもらえるのではないかというのが高橋部長のアイデアであった。

 島田編集長と中野室長は、教育業界では政府の「スクールニューディール政策」にのっとり学校のIT化が進められており、学習塾業界でもタブレット端末を含め教育現場でのITの活用に取り組んでいる事は既にある程度調べていた。そこで、今回のプロジェクトの取り組みの一環として、学習塾業界が最初の具体的なターゲットとなるかもう一段深い調査をしてみることにした。

 調べて見ると、学習塾の業界は大きく3つに分かれていることが分かった。1つは、有名中学・高校への進学を目的にする進学塾、もう1つは学校での勉強を補足するための基礎的な学習を行う補習塾である。そして、第3の形態として、学校教育で十分にカバーできていない「基礎学力」を低学年のうちに徹底的に身につけて「知識」と「考える」力を養うことで、従来の知識の記憶量から「視野の広さや思考力」を問う傾向に変わった最近の入試傾向に対応する塾が出てきているということも分かった。

 このようなタイプの塾では、野外学習を取り入れたり、理科の実験を行ったりすることで、実際に現物を見て理解することを重視している。また、社会の勉強においても、従来の歴史や地理に関する勉強だけでなく、環境問題をはじめとする時事問題の理解などを行うために、教科書には出ていないような最新のトピックなども独自テキストを作成して学習テーマにしている。

 学習塾のA社は、第3の形態で業績を大きく伸ばしている学習塾の1つである。創始者の野原氏は、子どもの好奇心を最大の学習意欲だと考え、「楽しく学び、楽しく遊ぶ」ことを基本方針に、子どもたちだけでなく保護者からの支持も多く得て、急成長をしてきた。科学の実験教室には、お父さんと参加する子どもも多く、親子での学習もA社の大きな売りになっている。雑誌などの記事やインタビューを見ると、従来型の紙のテキストには否定的で、もっとリアリティーの高い教材(その究極が野外学習であり理科の実験でもある)を使って教育を行うべきだという考え方を持っている。

 マルチメディア性や、リアルタイム性はデジタルメディアの最も得意とする分野でもあり、理科や社会のコンテンツは豊かな生活社が抱えている著者ネットワークとの親和性も非常に高い。また科学の分野では、競合他社の「おとなの科学」などがヒットしており、その読者であるお父さん世代は豊かな生活社としてもぜひ広く取り込みたいターゲット読者層でもある。島田編集長と中野室長は、A社への提案を具体的なビジネスケースとして取り込めば、他の編集長の協力も得られるのではないかと考えた。プロジェクトのキックオフとしたい次回の編集部会議まで残すところ2週間を切った。島田編集長は、この段階でどのような行動をとるべきであろうか。

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