ファシリテーター型リーダーの「巻き込み力」〜その5:エグゼクティブのための人財育成塾(2/2 ページ)
関係するプレイヤーを巻き込むためには、時にはプロジェクトの目的とスコープの変更も必要となる。このような状況でプロジェクトリーダーはどのような行動をとり、何を考えるべきであろうか?
目的の再設定のために必要な巻き込み
島田編集長と中野室長がまずやらなければならない事は、相田編集長と峰岸編集長への確認である。2人は、今回のプロジェクトへの協力の前提として、
- 豊かな生活社がビジネスとして取り組むに値する具体的な領域と取り組み内容
を挙げている。プロジェクトの活動に学習塾A社への提案を盛り込むことで、2人が納得するかどうかを確かめておく必要がある。2人に納得してもらうためには、当然のことながらA社への提案が実現する確度を押さえておく必要がある。
論理的な確度が高かったとしても、実ビジネスとしての確度が低ければ2人は納得しない可能性が高い。その確度を確認するために必要な事は、豊かな生活社と学習塾A社との関係性である。高橋部長が以前打診した担当者との関係は現在どうなっているのか、その担当者はA社内でどのようなポジションにあり、今回の提案のコンタクト先として適切なのかどうか。その担当者では確度が低い場合には、より確度を高められる適任者にアプローチ可能かどうか。このような事を高橋部長に確認した上で、実ビジネスとしての実現性がある事を含めて巻き込む人に話をしていく必要がある。
また、上記に加えて、A社への提案が他の学習塾への提案にどれほど広げられるか、つまりビジネスの規模としてどこまで広げられる可能性があるのかについても押さえておいた方が良い。仮にA社への提案が可能で提案が採用されたとしても、A社だけで終わってしまってはビジネスとして成立しない可能性が高い。両編集長が電子書籍への取り組みに積極的にならないのは、現行のビジネスへの取り組みの方が豊かな生活社の業績向上に繋がると考えているからである。豊かな生活社が持つ他の学習塾との関係および提案事例、関係を持たない学習塾へのアプローチ手法などの考え方も含め、両編集長に自分たちの考えを説明する必要があるだろう。
プロジェクトオーナーへの確認
両編集長の納得を得られれば、次に行わなければならない事はプロジェクトオーナーである高杉社長との認識の擦り合わせである。高杉社長は、「今回の取り組みで発生するさまざまな意思決定事項に関しては、高杉社長本人が行う考えを持っている」事を島田編集長に伝えている。A社への提案をプロジェクトの活動に盛り込むことになれば、プロジェクトのスコープ、アウトプットも変わってくる。また、取り組み期間にもインパクトを与える可能性がある。島田編集長は、今回の修正をなぜ行ったかを高杉社長に分かりやすく伝え、承認を得る必要がある。
今回のスコープ変更は、学習塾を対象に具体的な電子書籍の提案を行うことができるレベルまで検討が必要になったいということである。このためには、学習塾に対して豊かな生活社のコンテンツの活用方法を具体化しなければならず、豊かな生活社のメンバーに加え、
- 動画などコンテンツのマルチメディア化に必要な関係者
- 端末選定のために必要な関係者
- eラーニング業界の関係者
など、社外のプレーヤーを巻き込む必要がある。
具体的にどのプレーヤーを巻き込もうと考えているか、コンタクト先があるのか、巻き込み方など、自分たちの考えを高杉社長に説明できなければ、プロジェクトの実行性の観点から取り組みが頓挫するリスクがある。更に、コンテンツに対するニーズを押さえるためには、実際に塾に通っている子どもや保護者、および学習塾関係者も巻き込まなければならない。このような社外を巻き込むためには、自身だけでなく他の社員が持つ既存の関係を最大限に活用する必要がある。塾に通っている子どもや保護者へのアプローチには、可能であれば自身の家族や親戚などのプライベートな関係も活用する必要が出てくるであろう。ファシリテーター型リーダーとして、どのように周囲を巻き込むかのプランを立てて目的達成の確度を高められるように行動する必要がある。
わたしが行っているコンサルティングや研修では、上記の内容を整理するために「目標設定と巻き込みプラン概要」シートを活用している。参考までに掲載しておくので、皆さんの実務にも生かしてもらえれば幸いである。
著者プロフィール
井上 浩二(いのうえ こうじ)
株式会社シンスターCEO。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、1994年にケーティーコンサルティング設立。アンダーセンコンサルティングでは、米国にてスーパーリージョナルバンクのグローバルプロジェクトに参画後、国内にてサービス/金融/通信/製造等幅広い業種で戦略立案/業務改善プロジェクトに参画。ケーティーコンサルティング設立後は、流通・小売、サービス、製造、通信、官公庁など様々な業界でコンサルティングに従事。コンサルタントとしての戦略立案、BPRなどの実務と平行し、某店頭公開会社の外部監査役、MBAスクール、企業研修での講師も務める。
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