お客様に導かれ「勝てる構造」を研ぎ澄ます――アスクルを進化させ続ける岩田彰一郎社長:ビジネスイノベーターの群像(2/2 ページ)
オフィスで日々使う文房具やOA用品から工場や研究所などで必要とされる工具・理化学用品などのいわゆる「間接材」にも着目、「明日来る」を掲げてワン・ストップ・ショッピングを実現させたのがアスクルだ。創業以来一貫して同社をリードし、イノベーションを意識的に生みだしている岩田社長が、「進化し続けるための条件」を話す。
1番目は、「デジタル技術の変化」。岩田氏によれば、「当時は、スマートフォンはまだ存在していなかったが、カタログという媒体から、“いつでも、どこでも、誰にでも”届くような形に移行していくだろうと予測した」という。
2番目が「進むノンコア業務の外注化」。「大企業が本業に集中し、間接材の購入をアウトソーシングする時代になる。これが新サービスSOLOELのバックボーンになった」と岩田氏。
3番目が「お客様主導型社会の到来」。今日のソーシャルネットワーク社会の到来を予言したものといえる。4番目が「日本からアジアへ」であり、最後の5番目が「循環型社会の到来」である。
こうした長期的な変化を見通し、どう自社をポジショニングしていくかを徹底的に考え抜くところに、アスクルのイノベーションのカギがある。
そのような背景の下、2008年4月にサービスを開始した「SOLOEL」だが、直接的なきっかけは、やはり顧客の言葉にあった。あるエレクトロニクス企業の購買担当者が、アスクルの物流センターを見学し、「これはすごい。これができるのだったら、他の間接材もジャスト・イン・タイムで納入できないか?」と訊ねてきたという。
「アスクルが取り扱っているような、製造にかかわる原材料以外のもの、つまり間接材の市場は、日本中でまとめると30兆円ある。企業のコストの約2%が間接材といわれているので、1兆円の企業なら約200億円。それを仮に10%下げられれば、20億円のコスト削減になる」(岩田氏)
そして、直接的なコスト削減だけでなく、購買にかかる手間も含めて、トータルにみる必要がある。そのための仕組みを、アスクルは「電子篩(ふるい)」と呼ぶ。
「これは、購買の“見える化・最適化・標準化・共同化”を実現するプラットフォームであり、このSOLOELの周りに、SOLOELを利用する大企業のコンソーシアムが広がってきている。各企業とも、自社は安く買っていると思いこんでいたのが、オープンにしてみると、“意外と自分のところは高く買っていた”と分かる。各企業にベストプラクティスを出し合ってもらい、われわれは“事務局”として、見える化された情報を共有知にしていく」(岩田氏)
構造はロジックで、コンテンツは感性で
他方、コンシューマーに対するプラットフォームとして、現在、注目を集めているのが「アスマル」だ。これもSOLOELと同様、オフィスでアスクルを利用している顧客からの「個人でも買いたい」という声がきっかけ。「最初はアスクルのプライベートブランド商品を売ろうと考えていたが、かつてアスクル事業を立ち上げたときに、他社商品をお届けすることにしたのがブレークスルーとなったように、アスマルでも同様のスタンスでやっている」と岩田氏は話す。これは、「100%インターネットのモデル」であり、「今のコアのお客様は30代の働くママたち」だという。
「ビジネスモデル的にはアスクルのお客様として働く女性たちが一方にいて、他方に、そうした女性たちに使ってもらいたいメーカーの集積がある。その両者をつなぎ、見える化・最適化する役割をアスマルが果たす。「勝てる構造」という意味では、モデル的に極めてすっきりしている。そこにコンテンツとして、働く女性を本気で応援する商品を取り扱っていく。構造はロジックで作り、コンテンツは感性で載せていく」(岩田氏)
お客様の声に導かれて、「勝てる構造」を研ぎ澄まし、次々とイノベーションを仕掛けていく岩田氏は、依然としてアスクル進化の原動力であり続けている。
プロフィール アスクル株式会社 代表取締役社長 岩田彰一郎(いわた・しょういちろう)氏
1950年生まれ。1973年慶應義塾大学商学部卒業後、ライオン油脂(株)(現ライオン(株))に入社、ヘアケア商品開発等を担当。1992年プラス(株)の新規事業アスクルの開始にあたりアスクル事業推進室室長に就任、1997年アスクル(株)の分社独立とともに代表取締役社長、2000年代表取締役社長兼CEOに就任。
さらなる事業拡大を目指しアスクルは、2000年11月にJASDAQ、2004年4月に東証一部へ上場する。現在は、オフィス用品から医療用消耗品のデリバリーサービスまでその事業領域を拡大するなど、多様化するお客様のご要望に応える商品・サービスの拡充に取り組む。
2000年6月よりマネックスグループ(株)のアドバイザリーボードメンバー、2003年5月より(株)エヌ・ティ・ティ・ドコモのアドバイザリーボードのメンバー、2006年6月より(株)資生堂の社外取締役を務める。
また、2003年には経済同友会に入会し、2004年度より幹事、2008年度4月より副代表幹事に就任。2004年度起業フォーラム企画運営委員、2005年度起業フォーラム委員長、2006〜2007年度ITによる社会変革委員会委員長、2008年度社会的責任経営委員会委員長、2009年度中堅・中小企業活性化委員会委員長、2010年度観光・文化委員会委員長を歴任。現在は2011年度社会的責任経営委員会委員長を務める。
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