アウトソーシングを変える5つのルール:海外ベストセラーに学ぶ、もう1つのビジネス視点(1/3 ページ)
アウトソーシングは、敵対する関係から協働する関係に移行することで、双方が利益を得られる新しいアプローチだ。企業はコアコンピタンスに集中しそれ以外をアウトソーシングすることによって利益拡大を目指す。
この記事は、洋書配信サービス「エグゼクティブブックサマリー」から記事提供を受け、抜粋を掲載したものです。サービスを運営するストラテジィエレメントのコンサルタント、鬼塚俊宏氏が中心となり、独自の視点で解説します。
3分で分かる「互恵型アウトソーシング」の要点
- 互恵型アウトソーシングとは、新しいパートナーシップに基づくモデルであり、顧客と受託業者が協働することで双方が利益を得られるものである
- 典型的なコスト主導型アウトソーシングは、敵対関係を生み出し、顧客のためのサービスの向上やコスト削減の意欲をサプライヤーが持つことはない
- 従来のアウトソーシングを苦しめる10個の病がある。それは、アウトソーシング契約を結ぶことをゼロ和ゲームのように考えている好戦的な相手に品質を犠牲にしている顧客または受託業者から感染する
- 従来型の受託業者の水準は時間とともに下がる。顧客は、結果の測定を怠ったり、過度に測定したり、適切なデータの使用を怠ったりすることで受託業者との関係性を壊してしまう
- 互恵型アウトソーシングを実施するには、次の5つのルールを守ること
- 受託業者と一緒に、5つの互恵型報酬を明確にすること
- 双方にとってのリスクとリワードが平等になるよう価格決定モデルを作ること
- 「監視」するのではなく、「見識を与える」こと。受託業者の管理に時間を割いてはいけない。協力して事業を改善し、みんなが恩恵を得られるよう努力すること
この要約書から学べること
- 21世紀のビジネスには新しいアウトソーシングのパラダイムが必要な理由
- アウトソーシング取引の10の問題点
- 互恵型アウトソーシングの5つのルールを使って、事業を改善する方法
- 互恵型アウトソーシングを始める方法
本書の推薦コメント
アウトソーシングは、ほとんどの企業、特に要員派遣や市場調査、電話でのカスタマーサービスなどのサービスを提供する企業にとって必要不可欠なものです。しかし、従来のアウトソーシングでは、クライアントあるいは受託者に本来ならば提供出来る価値を常に提供できていません。サプライチェーンのコンサルタントであるケイト・ヴィタセク(およびマイク・レッドヤードとカール・マンロッド)は、アウトソーシングには、敵対する関係から協働する関係に移行することで、双方が目に見える利益を得られる新しいアプローチが必要だと主張しています。
また、調達予算全体の半分を受託業務に充てている米空軍が、テネシー大学エグゼクティブ教育センターの援助の下、本研究に出資しました。本書は、アウトソーシングを使って今まで以上の成果や大きな利益を求める企業や受託業者に手本を示しています。綿密で啓もう的な本書を、新規およびベテランのアウトソーシングのクライアントおよび受託業者にお薦めします。
アウトソーシングの目的とは、自分が何かを行うときに、どうしてもその能力に限界や、時間的な余裕がないとき、また更に質の高いものを創出するために、その分野の専門家に任せて業務の高度化効率化を促すことにあります。いわゆる、分業という仕組みで考えられることで、よく、下請けと混同されることがあります。しかしながら、この2つは根本的に異なるものであり、アウトソーシングとは会社のある一部の機能を専門分野や専門の能力を有する個人や企業がそれを請け負うことで、請け負った職務には社会的に責任が問われます。
それに対して、下請けとは、仕事の機能ではなく、仕事の一部分の請負であり、何か問題があれば、発注元が社会的責任を受けることになるのです。ともすれ、日本企業でいえば、下請けとしての発注の概念は昔から存在し、その名残があるため、アウトソーシングという専門性の高い組織や個人に会社の一機能を任せていったとしても、下請けと意識は変わらず、社内の人件費を抑えるという目的で、業務をアウトソーシングしていくという考え方が根付いています。それどころか、アウトソーシングの派遣を行う企業そのものもそうしたコストを売りにして運営しているところさえあります。
しかしそれでは単に技術の安売りに過ぎず、決して質の高いアウトソーシングを発注元に提供することはできません。
本書においてはそうした従来のアウトソーシングにありがちな悪癖をすべてさらし、その上で今後のこのビジネスモデルがより効率化高度化するために必要なルールを定義付けています。価値あるアウトソーシングの利用について学び企業運営に役立てるためにはぜひお読みいただきたい一冊といえるでしょう。
できる限りのことをする
アウトソーシングの誕生は、人間性の誕生と同じくらい昔のことです。仕事を分担することで生産性を高めることができると気が付いた時から、人は自給自足を止め、後天的あるいは先天的能力を持つ人に、その人が得意とする仕事を分配し始めました。
現代のアウトソーシングは、20世紀後半にグローバル事業として始まりました。1970年代、他のイノベーターと一緒に、テクノロジー・サービス・プロバイダーであるEDS社がアウトソーシングを確立しました(アウトソーシングという名前を付けたともいわれています)。1980年代には、企業は一定の業務を外部委託するようになりました。また、1990年代になると、テクノロジーの急速な発展により、アウトソーシングは大幅に増えました。コンピューター通信の性能の高まりにより、企業はオフィスを構えなくなり、いつでもどこでも運用されるようになったからです。
さらに、「コア・コンピテンス」という概念が、現代のアウトソーシングの急増を促進しました。「In search of excellence(邦題:エクセレント・カンパニー)」の共著者であるトム・ピーターが、「自分が最も得意とすることを行い、残りは委託せよ」と述べているように、企業は自分達が得意とする分野に力を注ぎ、重要性の低い業務は第三者に委託するようになりました。そして今、企業は情報技術、人事機能、ビル管理、不動産業、倉庫管理、会計、顧客サービス、コールセンター、市場調査など、企業の戦略の中心ではないあらゆる業務を日常的に外部委託しています。アウトソーシングは、現代のグローバルな企業にとって必要不可欠なものであり、通常、コスト主導型となっています。
企業が重要な業務を受託業者に委託した場合、顧客のコストや受託業者の設定する価格が通常、その関係性を決定づけます。顧客は低価格で請け負って欲しいと思いますし、受託業者は提供するサービスの最良価格を付けたいと思います。そのため、通常、両者は敵対関係にあります。コストを低く抑えるためには、企業は受託業者に圧力をかけなければなりません。その一方で、通常、取引ごとに料金を請求する受託業者は、例え非効率的であっても、可能な限り低コストで業務を行うことで大きな利益を生み出したいと思っています。
しかし、敵対する代わりに協働することで、顧客と受託業者の双方は、より大きな見返りを手にし、アウトソーシングを「双方にメリットをもたらす取組」に変えることができます。このような「互恵型アウトソーシング」は、新しいアウトソーシングのモデル「アウトソーシング2.0」の基盤となるアプローチです。アウトソーシング2.0には、21世紀における4つの影響力のあるビジネス・コンセプトがあります。それは、「アウトソーシング」、「協働」、「革新」そして「測定」です。
企業は労働力を買ったり(外国に住む労働者の場合、これを「オフショアリング」と呼びます)、「業務プロセスのアウトソーシング」を行ったり、あるいは「完全アウトソーシング」の契約を結んだりすることができます。それによって、第三者が「資源、人材、業務プロセス、そして部分的マネジメント」を提供してくれます。大規模でさらに大きくなりつつあるアウトソーシング産業はおよそ6兆ドルの規模まで成長し、15万人以上の専門分野を持った人々が従事しています。
近年のプライスウォーターハウスクーパース社が実施したアンケートによると、回答した企業のうち60%以上が事業の一部をアウトソースしており、実際、経営者は、結果を出してくれるためアウトソーシングを戦略的ツールとして見なす傾向にあることが分かりました。
アウトソーシングとは分業であり、専門性を持った人がそれぞれの得意分野についてできる限りのことをするところから始まっています。それゆえに本来であればWin-winの関係でなければならないものが、コスト削減を意識するばかりに人材そのものを外部に求めることで達成できるとした考えになってしまっているのです。これがアウトソーシングの悪習慣ともいえるものです。
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