アウトソーシングを変える5つのルール:海外ベストセラーに学ぶ、もう1つのビジネス視点(2/3 ページ)
アウトソーシングは、敵対する関係から協働する関係に移行することで、双方が利益を得られる新しいアプローチだ。企業はコアコンピタンスに集中しそれ以外をアウトソーシングすることによって利益拡大を目指す。
アウトソーシングに関する10の問題を解決する
アウトソーシングに踏み切る主な理由はコスト削減を図るためですが、他にも理由は存在します。それは例えば、必要な製品あるいはサービスの改善、人員不足の解消、生産量の制約の解消、不十分なキャッシュフローの解決、リスク軽減などです。顧客は、このような目的を達成することを楽観的に期待してアウトソーシング契約を結びますが、最終的に失敗する取引が出てくることがあり、そうなると、委託した業務を社内に再び戻すか、あるいは新しい業者と契約を結び直すかする羽目になります。
アウトソーシング契約の問題は、時間とともに突然現れます。例えば、受託業者が目標を達成できなかったり、あるいは、契約構造が「歪んだ動機」を生み出すようなものであったりした時です。つまり、アウトソーシングの関係性を 損なわせるような予期せぬ結果が発生した時に、問題が発生するのです。アウトソーシングは次の10の「病気」のうち、少なくとも1つに侵されています。
コスト削減に縛られてしまいすぎる事によって、本来、アウトソーシングから高度化を求めるものが、逆効果となっている傾向にあります。さらにそこに出ている問題がどういうところから出ているかその原因が以下の10の項目の中のどれかに当てはまります。
アウトソーシングによる10の侵害について
(1)安物買いの銭失い
アウトソーシングがコスト主導型である場合、顧客の受託業者との関係性は地面に叩きつけられる恐れがあります。コスト削減に夢中になっている企業は、よりコストの低い受託業者を求めて契約を結び直す傾向にありますが、委託先をころころ変えることで発生する費用のことを考えていません。そのことで後悔しているある経営者は、「私たちは1ドル札を踏みつけて、10セントコインを拾っていた」と述べています。また、最終的に、能力の高い受託業者は過度に得な契約をあさる企業を拒絶するようになりますし、そういった企業には二流の業者しか残りません。さらに、取引を勝ち取らなければならないというプレッシャーにより、受託業者の中には業務にかかるコストよりも低い値を付ける所が出て来ます。しかし、それによって仕事は手抜きになったり、あるいは時によっては、受託業者が倒産に追い込まれたりします。
(2)アウトソーシングのパラドックス
企業はプロセスをアウトソースしようと決めた時、受託業者向けに手順を明確に説明した「作業指示書(SOW)」を作成します。しかし、過度に制約的な詳細を織り込むと、受託業者を能率の悪い、コストのかかる基準に縛り付けてしまうことになります。例えば、ある受託業者は、顧客の強い要求に応え、顧客の倉庫管理に必要以上の人員を配置しました。しかし、本来は、それよりも少ない人数で業務を行うことが可能でした。受託業者は彼らの分野の専門家です。顧客は、受託業者に彼らの最適な基準で仕事をさせるべきです。過度にルールを押し付けてはいけません。
(3)自己目的化
アウトソーシング契約の多くは、取引ごとに受託業者に支払いをするよう要求しています。よって、取引が多ければ多いだけ、受託業者は利益を得ることになります。この効率を上げようという意欲を削ぐ仕組みは、顧客に損害をもたらします。監視しても時間とともにその効果は薄れていきます。ある企業は、「サード・パーティ・ロジスティクスのプロバイダー(3PL業者)」に倉庫保管してもらっていた期限切れの商品を破棄しそびれてしまいました。3PL業者はそのミスを報告しませんでした。なぜなら、保管していた商品を破棄すれば、ひと月分の保管費を負担しなければならなかったからです。また、別のアウトソーシング取引では、最初の段階で顧客は月次報告をするよう受託業者と契約を交わしましたが、その報告は必要でないことに後で気が付きました。しかし、そう気が付く前に、その顧客には10万ドル以上の報告書の請求が送られて来ました。
(4)気性の荒い犬
アウトソーシングを考慮している企業の従業員は、自分達の仕事が危険にさらされていることを分かっています。そのため、自分達の仕事を守るために、ある特定の業務は社内に残すべきであり、外部の受託業者に渡すべきではないと主張することがよくあります。さらに、細かく指定したSOWを作成し、受託業者があまりコスト削減できないようにしたり、あるいは、必要以上に沢山の「サプライヤー管理者」を配置したりする傾向にあります。
(5)ハネムーン効果
あらゆる人間関係と同じように、アウトソーシングはバラ色で始まりますが、時が経つにつれ水準が下がってしまいます。もし受託業者に生産性を高める継続的な意欲がなければ、顧客も受託業者も「7年目の浮気」に走る可能性があります。顧客は委託している業務を他の業者に移したいと思うようになるかもしれません。しかし、契約上の縛りによって、業務を他社に移すことはコストと時間の両方がかかることになる恐れがあります。
(6)効率向上の強制
ハネムーン効果を相殺するために、企業は、受託業者の効率を向上させるための特別ボーナスについて時間をかけて交渉する傾向にあります。
しかし、受託業者は、顧客が毎年効率の向上を求めて来ることを理解しています。そのため、受託業者の収入を安定的に上昇させ、顧客を満足させられるようにするために、最低限の「低い位置にぶらさがっている果実」の質を向上させることが、受託業者にとって最善のことです。また、受託業者の中には、未来の業績低下に対する防衛手段として、時間をかけてゆっくりと本当の効率向上を図るところもあります。
(7)ゼロ和ゲーム
アウトソーシング契約を結ぶ双方は、勝つか負けるかという観点からアウトソーシングに取り組み、一方が得をすればもう一方は損をすると考えています。「自己目的化」や「アウトソーシングのパラドックス」、「気性の荒い犬」の犠牲者はそのような敵対関係になり、顧客と受託業者の関係性が双方にメリットをもたらし、どちらの利益も損なわずに双方がより大きな成功を収められるものになり得ることに気が付いていません。
(8)盲目になる
昔のアウトソーシング契約の多くは、確かな業績測定基準を定めていませんでした。取引とコストの計算はさておき、顧客は、アウトソーシングの効率性の向上や、「貯蓄流出」、つまり顧客が貯蓄できると思っていた額と、実際に貯蓄できた額の差の評価についてはほとんど考えていませんでした。今、顧客と受託業者の両方が、定量化の可能な「スコアボード」と「ダッシュボード」を使って実際の結果を測定することに同意することが多くなっています。
(9)過度な測定
測定しないことの対極にあるのは、不必要に測定し過ぎることです。データを詰め込んだ資料は、顧客に全ての情報を管理する時間と人材がなければ意味がありませんし、仮に時間と人材があっても、アウトソーシングがもたらすコスト削減や生産性の向上などが損なわれてしまいます。
(10)怠ることの力
適切な測定基準を持っていたとしても、もしその情報を使わなければ盲目になってしまいます。また、顧客は、受託業者との定期的な打ち合わせや、業績が不十分であることを示すサインのフォローアップを怠ることで、アウトソーシングを最大限に活用するチャンスを逃してしまうことがよくあります。
ここで出ている10項目を見ているかぎり、コスト削減と、時間の経過による緊張感の損失がこれらの悪癖を招いているという感じがしてなりません。互いにメリットがあり、生産性と収益率を上げるためのアウトソーシングにするためにはこれらに侵されていないかどうかを常にチェックしていく必要があるのではないでしょうか?
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