“超高齢化社会”日本を救うすべはあるのか:経営のヒントになる1冊
25年後には、3人で1人の高齢者を支える社会になる日本。そうした状況が抱えるさまざま問題に対し、解決手段として注目を集めているものとは。
日本社会が抱えるさまざまな問題の1つとして「少子高齢化」が叫ばれて久しい。日本はいまや高齢化社会のはるか先をいく「超高齢化社会」に突入している。現在、日本の高齢者(65歳以上)人口は2700万人に達し、4人で1人の高齢者を支えている。25年後には国民全体の約3分の1が高齢者になると予測されているほどの、世界一の“高齢者大国”なのだ。
当然、こうした状況は、以下の統計データからも明らかであるように、多くの弊害をもたらす。
- 高齢者世帯1000万突破、世帯総数の21%、半数は独居老人(2010年)
- 自動車免許保有者1万人当たりの死亡事故件数は70歳以上のドライバーの死亡者が最多
- 高齢者の自殺率は過去に世界一
- 災害による高齢者死亡率は全被害者の約7割 など
特に地震や台風などの自然災害が頻発する日本という国が、いかに高齢者にとって過酷な環境であるのかが統計からも明白である。東日本大震災も例外ではなく、犠牲者の多くが高齢者だった。津波によって甚大な被害を受けた岩手、宮城、福島の沿岸部地域はかねてより高齢化が進んでいたということも不幸っだった。また、地震や津波の被害を免れたものの、避難所で苦しい生活を強いられ、病気やストレスなどが原因で死亡してしまう高齢者も見られた。
こうした現状において、高齢化社会が直面する多くの課題を解決する上で最も有効な手段がICT(情報通信技術)の活用だと著者は説く。その理由として大きく3つ挙げる。1つ目は、ICTはいつでもどこでも誰でも簡単に利用できるという「ユビキタス」の特性を持つということ、2つ目は、双方向のコミュニケーションが可能だということ、3つ目はどのようなタイプの高齢者であっても彼らに見合うICTが存在するということである。
例えば、東日本大震災においても、被災地の多くの高齢者は停電の中、テレビなどで情報を手にすることはできず、大津波発生を知らせる防災無線か周囲の掛け声に頼る方法以外はなかったが、もし彼らが携帯電話やスマートフォンを持っていて、何が起こったかを把握できれば、彼らを助けられたかもしれない。あるいは、高齢者の居場所をGPS(全地球測位システム)で把握できたとすれば、もっと救える命があったかもしれない。高齢者がICTを使いこなすことができれば、有時、平時に限らず、必要なときに必要な情報を収集することが可能になるのだ。
では、どうすれば高齢者によるICTの利活用が進むのか。著者が高齢者を対象に調査を行ったところ、興味深い結果が出た。実は全体の69%が何らかのICT機器を毎日利用していることが分かったのだ。「高齢者=デジタルデバイド」という従来のイメージとは大きくかけ離れている。もちろんICTの提供者側も、より高齢者が使いやすいシンプルな商品を今後開発していく必要があり、そうした商品が普及していくことで、医療や公的手続きなどの場面で便利になり、効率化が進むことは間違いない。
さらに高齢者のICT利活用は雇用創出にもつながるという。著者らが行った高齢者の就業に関する意識調査によると、約8割の高齢者が就業意欲を持っているものの、背景にあるのは、年金支給問題などによる深刻な経済上の理由が大部分だった。こうした状況の打開策として、本書では多くの高齢者がパソコンを使って起業し、収入も得ているという三鷹市の事例を紹介している。
高齢者に向けたICTは日本に大きな経済効果ももたらす。本書によると、国内におけるシルバーICTビジネスの市場は直接効果で6兆6000億円、間接効果で14兆円規模になるという。さらにこの市場は毎年1兆円程度ずつ拡大するしている。その内容は多岐にわたり、具体的には、介護ロボット、GPS位置情報、テレワーク、テレビ会議、電子政府サービス、電子カルテ、遠隔医療、スマートフォンの高齢者用コンテンツ、スマートホーム、スマートシティなどでのビジネスが生まれるだろう。
中でも特にマーケットの拡大が見込まれる医療分野のICTについては、政府も本腰を入れている。2010年に発表された「成長戦略ビジョン」では、健康、介護、医療分野におけるICT利活用の推進を掲げている。具体的には、2020年までに自己の健康医療情報を管理したり、全国どこでも遠隔治療が受けられたり、医療機関間で情報共有できたりする「健康医療クラウド」を整備する予定である。高齢者などに対する取り組みとしては、在宅医療、介護、見守り支援の推進、高齢者や障害者にも優しいハードやソフトの開発などに注力していく。政府のみならず、民間企業でもさまざまな動きが見られる。
超高齢化社会を後ろ向きにとらえるのではなく、新たな価値創造のチャンスだと見ることが、これからの日本において不可欠な視座になるはずだ。
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