企業の人材教育はテクニックに走り過ぎ、かつ言い訳が多い、肝心なことを忘れている:生き残れない経営(2/3 ページ)
豊かな人材が企業の土壌を豊穣にする。「人材教育」を企業風土として定着させることが必要。
研修の成果を長続きさせる
次は、中堅の某産業機械メーカーの例である。ある部署の部長は、課長が承認を得るために持ってくる部下の昇給賞与の勤務査定をチェックするとき、被査定者の部下について必ず質問をする。「彼の優れたところはどこか。彼の足りないところはどんなことで、日頃どんな教育をしているか?」と。毎回問われるので、課長は部下について十分把握をして部長室へ行くし、何よりも日頃から部下の教育に関心を持つことになる。
このメーカーでは、インフォーマル勉強会が盛んである。最初は独身寮で、趣味の会や技術、社会問題のテーマについて議論をする会が定期的に持たれていたが、徐々に全社に普及した。経営陣が勉強会に興味を持って話題にしたり、励ましたりするせいだろう。
さらに、某家電メーカーのある製造事業所の課長は、時間を見つけては所内図書室に立ち寄り、目ぼしい(海外)雑誌の記事や書物のタイトルをメモして職場に持ち帰り、部下達に「読んで、感想を聞かせてくれ」といって渡した。
本人も情報を得ることができ、一石二鳥である。ただ単に「勉強をしろ」「本を読め」と気合を入れる上司に比べて、何と具体的で効果的な教育であるか。実はその課長が、今や事業所のトップとして取締役事業所長の職にある。その事業所の人材教育に対する関心は、押して知るべしである。
最後の例は筆者がかねてから考えていた制度で、考えるはやすし、実行は難しと思っていたが、某商社へ提案をしたところ、見事実践に移している例である。
各種研修会が多くの企業で企画されているが、1〜2週間の研修を受けている間の参加者は洗脳されて、「よし、今後は心を入れかえて業務に当たろう」と思う。しかし、現実に職場に帰って激務にさらされるうちに研修中の感激や覚悟を忘れて、元の木阿弥に戻ってしまうのが、ほとんどである。
そこで現実の職場で研修参加者を確実にフォローアップし、洗脳された覚悟を長続きさせるために、研修開始と同時に研修参加者の上司を集め、数日間の研修内容を半日で要約して伝え、研修終了後のフォローアップを上司に依頼する制度を作った。日常業務の中で、研修内容のフォローアップが意識的に行われているわけである。
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