多様な側面からデザインするグローバル3.0時代の世界戦略とは(3/3 ページ)
成功するための条件が次第に変化している今、グローバル市場に挑む日本企業はどのような戦略を取るべきか。
経営、組織、人材、商品。多角的に戦略を練る
平野氏はマッキンゼーが実施した、日本の有力企業のトップに行った調査を紹介する。テーマは「なぜグローバル化がうまくいかないのか」。回答の多かったベスト3は「グローバル人材の不足」「魅力ある商品の不在」「業務の標準化の未熟」だったという。これに対して「グローバル3.0の時代は、経営そのもの、組織、人材、商品それぞれの角度からグローバル化戦略を練る必要がある」と平野氏は指摘する。
「グローバル人材の不足」を補うためにグローバル化で先行している企業を買収し、売上げやシェアだけでなく人材も獲得するという方法もある。しかし、買収企業をどこまで統合すべきか、ガバナンスをどう効かせるかなど、高度な経営問題もある。また、商品戦略の面からは、国内で開発していたものを海外で売るというモデルから脱却して、それぞれの市場にあった商品を開発・生産をするという選択肢はあるが、どこまで市場を細分化するのか、またそれを支えるサプライチェーンをどう再構築するのか、という戦略判断が必要となる。いずれにせよ、正解は企業ごとに違うのである。
「グローバルに展開したのだから、本社機能も海外に移す、ボードメンバーにも海外人材を入れるのは当然と、教条主義的に考えている向きがあるが、海外企業でもボードメンバーは母国人材で占めている企業は多い。問題は、グローバル化する理由は何か、ということだ。取引企業の多くが海外に出て行くから、というのも立派な理由だ。そのことを踏まえて自社なりのグローバル化を練っていくことが肝要。海外に出て行くことで何を狙うのか、事業規模拡大なのか、生産コストの引き下げなのか、リスク分散なのか、規制対応なのか。どの地域から、どのように攻略するのか、などさまざまな角度から考えて抜いて、決めることが必要がある」(平野氏)
平野氏は、日本のサービス業のグローバル化に着目しているという。ファーストリテイリング、イオン、セブンイレブンなどのアジア諸国での成長が著しい。ヤマト運輸などは「クール宅急便」を上海などで展開して成功させようとしている。
「ヤマト運輸は、配達先の居住者名入りの住宅地図を一から作成するという努力をして、日本と同じ質のサービス維持を目指している。しかし一方で、直営は都市部のみ、内陸部はフランチャイズ中心という柔軟な戦略を採って、過剰なリスクは回避している。まさにこうすればうまくいくというスタンダードがない状況で自社の強みに根差した独自の戦略を展開している」(平野氏)
グローバル化の進展は、国内産業の空洞化、所得格差の増大、先進諸国での中間層の破壊などが生む負の側面もある。グローバル化が進んだ企業にとって、今後問題になってくるのは、高い固定費を抱える日本の本社および事業所をどう位置付けるかだ、ともいわれている。しかし、平野氏は「フラット化する世界」の著者、トーマス・フリードマンの言葉を借りて次のように話し、講演を締めくくった。
「“グローバル化は選択肢ではない、リアリティなのだ”。リアリティと正面から向き合い、多角的なファクターから独自の戦略をデザインできるかどうかがこれからの経営に求められている」
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