経営のアジアシフトこそ、新興市場で勝ち抜く道:ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/2 ページ)
世界のあらゆる企業にとってアジアの新興国市場はすでに主戦場だ。中国の次の市場の選定を進める企業も少なくない。グローバル化に後れをとる日本企業は、新興諸国でいかに勝負すべきなのか。
一人当たりGDPは米国の半分で頭打ち?
中国でも、2000年代に入ってからは、年間所得30万〜250万円の中間層が急拡大している。中間層の中国の人口全体に占める割合は、2000年の約1割から、2014年には約9割にまで達する見込みだ。その3分の2は、大都市ではなく、地方の中小都市部に住んでおり、中国の大手企業はいわば、中小都市で新たに生まれる中間層とともに発展を遂げてきた。そして現在、中間層もさらに細かなセグメントに分けられ、顧客獲得競争が激しさを増しているという。
こうした中、先進的な企業は中国市場へいち早く参入し、拠点網を拡充させることで販売エリアを拡大してきた。市場への食い込みに伴い、生産拠点も中国全土に広く分布するなど、ネットワーク化を進めている。これは日本の自動車メーカーでも同様で、現地での部品生産・現地企業からの調達が増加していくだろう。加えて、ここにきて顕著になってきたのが、現地での研究開発活動の活発化である。
「かねてからのグローバル化は、優れた製品を本国で開発し、それを世界に販売するという手法が多かった。だが、新興国での市場拡大を図り、現地での大手企業の機先を制するためには、現地に権限を移転し、ゼロベースで製品開発に乗り出すといった取り組みをする企業が増えている」と深沢氏は述べる。
では、日本企業はこうした状況の中でどう行動を起こすべきなのか。その指針として深沢氏が挙げたのが次の5つである。
1つ目は「先を読むこと」だ。中国経済は米国を抜くとも言われているが、中国は現在、「スイートスポット」の最後の時期に差し掛かり、各国民が十分に豊かになる前に、急激な高齢化を迎えることになる。国民1人あたりのGDPで見て、2050年時点で米国の半分程度で頭打ちになるという試算もあり、今後の急速な高齢化により、個人の生活が脅かされる事態に陥る可能性も小さくないという。
また、確かに中国市場に対する関心は世界中で高まっているものの、実のところいずれの企業も、自社に距離的に近い国への投資を優先しがちな傾向がある。事実、A.T. カーニーの調査によると、投資先として信頼できる国に挙げられた上位10エリアのうち、アジア企業が挙げたアジアの国々は7つに上るものの、欧州企業と北米企業は中国とインドだけだ。
「これは日本企業も同様で、自社が元々詳しい国々しか、ターゲット市場に据えていない可能性がある。世界全体の市場が今後どうなっていくのかを見据え、俯瞰的に投資先を検討する必要があるはずだ」(深沢氏)
法務や税制面での落とし穴にご用心
2つ目が、「取引する業界の見通しを持つ」ことだ。例えば、薄型テレビの国別シェアを見ると、先進国市場では日本企業が4割以上を占めるものの、新興国市場ではわずか2割ほどで、韓国の攻勢に押されている。また、産業構造も、デジタル化に伴い水平分業が進んでいる。こうした産業構造の変化が自社にどういう意味をもたらすのかを考え、最適な意思決定を下すことが求められる。
3つ目は、「地域で産業の生態系を形成し、輸出すること」だ。例えば、欧州のいくつかの事業者が成功を収めているのは、「中国市場での高齢者向け都市開発」。独自のビジネスシステムを築くことができれば、他の市場へ展開することも可能で、競合も生まれにくいというメリットもある。
4つ目は、「他業界や過去の知恵を活用すること」だ。「例えば1980年代、米系を中心とする外資系企業が続々と日本市場に参入してきたときの経験を思い出していただきたい。彼らが日本で成功するための鍵は現地化、つまり『郷に従い、まず日本の会社になる』ことだった。これを思い出せば、日本企業が新興国市場を攻略する鍵も、自ずと分かるはず」と深沢氏は強調する。
そして5つ目が、「落とし穴にアンテナを高くすること」である。「新興国では法務や税務、労務などの面で、明確でない事柄が非常に多い。専門家を活用することで、こうしたリスクを低減させることが、無用なトラブルに巻き込まれないためにも肝要だ」(深沢氏)
アジアで勝つことは決して楽なことではない。ただし、成功に対する見返りの大きさからも、今後、アジアに経営の軸足を移す企業が相次ぐはずだ。
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