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なぜ経営現場でドラッカーを実践できないのか――ドラッカーといえども修正が必要生き残れない経営(1/2 ページ)

ドラッカーの基本理論、あるいは思想は間違いなく秀でている。しかし、ドラッカーのすべてを正しいと過信する傾向にあり過ぎはしないか。

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 ピーター・F・ドラッカー(Peter Ferdinand Drucker)に関する書物が世に多く出回っている。ドラッカー信奉者も、極めて多い。「現代経営学」あるいは「マネジメント」の発明者と称されるドラッカーの理論を経営現場で実践すれば、大きな効果は期待できる。

 しかし、ドラッカー理論が100%正しく、そのまま実践すれば間違いないと言えるのだろうか。確かに、ドラッカーの基本理論、あるいは思想は、間違いなく秀でている。しかし、一般的にドラッカーのすべてを正しいと過信する傾向にあり過ぎはしないか。

 恐れ多いがあえて言わせてもらうと、ドラッカーといえども、各論を展開する段階で、特にこの閉塞感にとらわれた時代から見て、誤りとはいわないまでも、修正、補足すべき点があるのではないか。あるとすれば、今の時代に適合するように修正、補足をして実践すれば、一層の効果が期待できこの閉塞感から抜け出すことができるのではないか。

 ドラッカー理論に修正補足が必要であると考えられる点を、いくつか取り上げていきたい。

 まず今回は、「顧客は誰か」、「顧客はどこにいるか」、「顧客は何を買うか」について検討する。ドラッカーによれば、事業を定義する時、企業の目的と使命を定義する時と同じように、顧客が唯一の出発点となる。即ち、事業は顧客が商品やサービスを購入することで満足を得ようとする欲求により定義される。従って事業を考える時、「顧客は誰か」、「顧客はどこにいるか」、「顧客は何を買うか」を問わなければならず、これらの問いはドラッカー理論でも主要部分を占める。

 しかし現時点で見た時、ドラッカーといえども中には消極的ではないかと思われる問いもあり、陳腐と思われる問いもある。ドラッカー理論に補足が必要とするゆえんだ。われわれはドラッカーの真意を汲んだ上で、必要な修正をし、新たな問いを発しなければならない。

 「顧客は誰か」、この問いに対するドラッカーの答えは実にあっけない。顧客は消費者だけでなく、その前の小売店と2種類あるとする。あるいは、カーペット業者の場合は、住宅購入者と建築業者に、住宅ローンを組む金融機関もあり、顧客は数種類あるとし、すべての顧客を満足させなければならないとしている。確かに、そうだろう。しかし、それはあまりりにも大雑把な捉え方ではないか。もう少し詳細に捉えるべきであり、変化も考慮に入れるべきではないか。顧客は変化している。

 コンビニエンス・ストア(以下、コンビニ)に置かれているような日用必需品を、例に考えてみる。従来の顧客は、ドラッカー流に言えば、主として便利さを求める若者や帰宅時間の遅い勤め人ら最終消費者と、コンビニ店主ということになろう。しかしコンビニは、最終消費者として高齢者、女性などをターゲットにしだした。

 1日1店舗当り平均顧客数の割合で、セブンイレブンでは50歳以上の顧客が'89年9.0%、'99年15.7%、'07年21.1%と増えている(セブン・イレブン・ジャパン来店客調査)。その後、もっと増えているだろう。

 女性客対象として、ローソンが野菜などの生鮮品を店頭看板に掲げて扱っている。スーパーマーケットに対抗した生鮮野菜の扱いなどは、思い切った企画だ。なお、ファミリーマートは女性向け弁当、セブンイレブンは簡易調理のチルド商品という具合である。その他、健康志向の女性向け食品、調理室を併設して調理したての食品の提供などの工夫をする。

 一方で日用必需品取り扱い店として、近年ではコンビニの他に、スーパーマーケット、ショッピングストア、駅構内店、あるいは消費者も対象とする業務用スーパーなどがあり、それぞれに特徴を持った流通経路があって、それぞれに異なる顧客が介在することになる。いわゆる、それだけ顧客が複雑化している。

 このように、ドラッカーの予想を大幅に超えて顧客は変化している。われわれは、「顧客は誰か」を一層厳しく詳細に追及して問うことを求められるようになっている。

 その時、ITに助けられる。新しく開発された機器、ソフトウエア、クラウドコンピューティング、ビッグデータなどを活用して、例えば顧客の年齢層、店内での顧客の動き、滞留時間などを分析し、さらにSNS(Social Network Service)で顧客がどんなつぶやきをしたかなどから顧客の要求を知り、顧客ターゲットを絞り込むことなどもできる。

 「顧客は誰か」は、変化する。単純に問うのではなく、触覚を鋭くして変化に敏感になって問い、変化を捉えること、その上必要に応じてITを駆使して詳細に分析すること、そして、できれば顧客を創り出すセンスも持たなければならない。

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