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店ざらしになる「国会事故調報告書」藤田正美の「まるごとオブザーバー」(1/2 ページ)

「そんなことはありえない」と言っているうちは将来にわたるシナリオを描ことはできない。

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 憲政史上初の試みとして注目されてきた福島第一原発事故の「国会事故調」。政府でもなく民間でもなく、国権の最高機関である国会が、原発事故の原因や背景を調査し、二度と同じことを繰り返さないために「満場一致」で設置した調査委員会である。この事故調では原則公開がうたわれていたことから、多くの参考人が公開の場で質問に答え、国内外のメディアやフリージャーナリストが取材した。公開で行われたことが大きな理由である。

 7月6日に衆参両院議長に報告書が提出され、この委員会は解散となったが、報告書そのものはどうやら「店ざらし」になって、埋もれてしまいそうな状況だ。民主党も自民党もトップの選挙があり、しかも「近いうち」には解散総選挙という雲行きでは、とても事故調の報告書などにかまけてはいられない、というところだろうか。

 思惑が違ったのだという解説もある。この事故調を利用して現在の民主党政権を攻撃する材料にしようと考えていたのに、結果的には、菅政権の事故対応のまずさだけでなく、過去の自民党の「失政」(例えば原子力安全・保安院の在り方など)も厳しく指摘されてしまった。そのため、国会事故調の黒川委員長を参考人に呼ぼうという話も自民党や民主党の反対によって実現していない。国会が初の試みとして設置した国会事故調の報告を、何ら審議することなくお蔵入りしてしまったら、それこそ憲政史上の汚点となる。菅首相流の言い方をすれば、「歴史への反逆」だ。

 政府事故調や国会事故調の報告書が出る前に、政府は関西電力大飯原発を再稼働した。野田総理は「東日本大震災と同じ程度の地震や津波に襲われても、メルトダウンは起きない」と述べた。「事故は起きない」と言い続けたのが「安全神話」。その安全神話がもろくも崩れたのが福島第一原発の炉心溶融事故。その意味では「メルトダウンが起きないように対策をした」という言い方そのものは安全神話を一歩も出ていない。こうなってくると、国会事故調は、単なる国会議員の自己満足、もっと悪く言えばアリバイ作りだったのかと思いたくもなる。

 しかし事故調が明らかにしたさまざまな問題点は決して無視していいものではない。それは原子力の安全という問題だけでなく、わが国のさまざまな病巣に迫る問題を指摘しているからである。その中でも最もわが国の将来にわたる問題は、シナリオを描く能力である。

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