『ひらいて』著者 綿矢りささん:話題の著者に聞いた“ベストセラーの原点”(1/3 ページ)
一人の女子高生の恋に焦点を当て、切実さとコミカルさが入り混じった物語世界を創り上げている。この作品で綿矢さんは何を試み、何を描こうとしたのだろうか。
今回は、新刊『ひらいて』を刊行した綿矢りささんです。2011年に前作『かわいそうだね?』で大江健三郎賞を受賞した綿矢さん。受賞後第一作となる本作で、綿矢さんは一人の女子高生の恋に焦点を当て、切実さとコミカルさが入り混じった物語世界を創り上げています。この作品で綿矢さんは何を試み、何を描こうとしたのでしょうか。本人にお話を伺いました。
「詩だとかイメージのような文章をたくさん入れたかった」
――昨日、本作『ひらいて』の刊行記念サイン会(2012年8月8日、紀伊國屋書店新宿本店で開催)で写真撮影をしながら、来場されていた読者の方々の声を聞いていたんですけども、綿矢さんのこれまでの作品で一番良かったということを話している方が多くいらっしゃいましたね。
綿矢:「ありがとうございます。読んでくださった人は気に入ってくださったみたいで、すごく勇気づけられました」
――とてもおもしろくて、私も一気に読んでしまいました。新境地だという意見も見られますが、そのことについてはどのように思われますか?
綿矢:「新境地というより、むしろ2作目あたりでやりたくてできなかったことをやったという感じです」
――執筆にあたって、ご自身のなかにテーマのようなものはありましたか?
綿矢:「詩みたいな文章を入れることです。説明的な文章じゃなくて、詩だとかイメージのような文章をたくさん入れたかったというのはありますね」
――今おっしゃったような、イメージを喚起させる文章を物語の大きな流れの中に入れるというのは難しい試みだったのでしょうか。
綿矢:「そうですね。主人公の“心のポエム”のようになってしまうと浮いてしまうし……。デビューした頃からやりたかったんですが、難しくてできなかったんです」
――この作品で際立つのは、なんといっても主人公「愛」のキャラクターです。彼女のようなどこか冷めた女の子は過去の作品にも登場しますが「愛」のようなキャラクターとご自身の性格には似ているところがあったりしますか?
綿矢:「ほぼ本人になりきって書けたので、本質的には一緒なんじゃないかと思います。それと、高校生の時って万能感のようなものがあったりしますから、作品にはそういうものも入れました」
――物語が進むにつれて、その「愛」が同じクラスの男子生徒にのめり込んでいきます。「愛」の思いはすごく切実なのに、どこかコミカルでもあります。そういった「切実さ」と「コミカルさ」のバランスというのは意識されましたか?
綿矢:「「愛」は結構本気で生きているタイプの主人公で、自分を客観視したりギャグを言ったりすることも少ないし、笑いとは程遠い性格なんですけど、思い詰めるあまりに突っ走った行動をとります。それは他人から見ると滑稽やし、考えていること自体がギャグっていうところがあって、そこは生かしたかったですね」
――個人的には「愛」が、理科準備室で一人お弁当を食べる「美雪」に注射器を借りてインスリン注射を打つ場面が、その後の展開を暗示するという意味ですごく印象的でした。
綿矢:「あれは糖尿病の方に聞いたお話も参考にさせていただきました。その方は、「美雪」みたいに食事のときには注射を打たないで、トイレで打っていたそうなんですけど、知り合いにはもっと気軽に打っていた人もいたそうです。たとえば、服をまくらずに生地の上から注射する人もいるとか。注射って皮膚に直接打つもんだと思ってたけど、そんなに気軽に打つんだと思ってすごく驚いて。それがとてもリアルな感じがしました」
――確かに、注射ってなんとなく身構えてしまいますよね。
綿矢:「そうですね。自分で打っている人にしても、 “さあ、打つぞ!”っていう思いきりがいるのかなと思っていたけど、そうではなかった。毎日定期的に打っていると、そういう風になっていくのかもしれません」
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