おいしい食品でより多くの人を幸せにしたい―オイシックス 高島社長:ビジネスイノベーターの群像(2/2 ページ)
今ほど食の安全に対する問題意識が広まっていない。食品をインターネットで注文する習慣もない。ましてや、農家が小規模な小売業者に対して農作物を直接販売するといったことも一般的ではない。そんな2000年に、オイシックスのインターネット販売は始まった。
SNSにより食品や地域ブランドの真の実力が露呈する時代に
オイシックスはECサイトにも工夫をこらしている。アマゾンなどと比べ、オイシックスの顧客の特徴は、購入品目の多さと購入頻度の高さにある。アマゾンの場合、1回に購入する商品は1、2品目で、購入頻度は人によって異なるのに対し、オイシックスの場合、1回に購入する商品は約15品目で、購入頻度は毎週か隔週だ。
そこでオイシックスでは、顧客がストレスなく、効率良く買物ができるよう工夫する。その1つが、サイトを訪れた際、毎回購入している商品に関してはあらかじめカゴに入れておくという機能だ。もちろん、不要なものが入っていれば削除することができるし、逆に足りないものがあれば自由に追加できる。インターネットならではのパーソナライズ機能をフル活用することで、毎度の煩わしさを軽減しているのだ。
一方、いま高島氏が注目しているのが、ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)だ。
「“食べログ”などの普及により、レストランに関する一般の人々の評価が点数で表示されるようになった。同じように今後は、食品1個1個についても、SNSを通して厳しく評価される時代がやってくる。それにより、真の実力が露呈することとなる。これまでブランドイメージによって守られてきた生産者が、今後は実力で勝負しなければ勝ち残っていけない時代が来るということを意味している」(高島氏)
消費者の多くが、「コシヒカリなら間違いない」「リンゴは信州か青森に限る」といったある種の先入観、つまりブランドイメージに基づき商品を選択してきた。しかしその結果、いくらおいしいリンゴを作っている農家があっても、信州産や青森産ではないというだけで手にすら取ってもらえないという現状があったのも事実だ。しかし、今後はSNSを通じて、食品や地域ブランドに対してより実態に即した評価が行われていくと高島氏はみている。
日本の強みとは日本人の強み
2009年にはオイシックス初の海外事業「Oisix香港」を立ち上げ、海外展開にも目を向け始めているように見える。その点はどうなのだろうか。
「弊社がOisix香港を立ち上げたのは、興味本位です。世間で“グローバル化”という言葉が氾濫している中、弊社も傍観しているのではなく、まずはやってみようということになった。まずは香港で事業モデルを作り、将来的に他の国にも展開したいと考えている。とはいえ、弊社の国内における売上規模を考えると、まだまだ国内で伸びる余地があると考えている。」(高島氏。)
ここで高島氏が言っているのは、海外に顧客を求めるグローバル化の話だ。一方で、高島氏は現在、仕入れ先の海外展開に着目し始めている。こだわっている点は、「メイド・バイ・ジャパニーズ」だ。
「日本車の良さが、日本人が作った車の良さを表しているように、わたしは日本の強みは日本人の強みのことではないかと考えている。事実、日本人の農業技術は世界でもトップレベルだ。例えばトロピカルフルーツは国内で作るよりも東南アジアで作った方が、気候的にもコスト的にも合理的だ。そこで、今後は“日本人がタイで作ったマンゴー”といったブランド展開が強みになるのではないかとにらんでいる」(高島氏)
さらには、「チェックド・バイ・ジャパニーズ(日本人が監修)」「コントロールド・バイ・ジャパニーズ(日本人が管理)」「トレインド・バイ・ジャパニーズ(日本人が指導)」といったアプローチで仕入れ先の海外展開をしていくことで、日本人ブランドを生かした高品質な商品を、より低コストで提供できないかと考えている。
一方で、国内を中心に、新規顧客のさらなる開拓にも注力していく。
「現在、定期購入の際に登録が必要な“おいしっくすくらぶ”の会員数は、7万5000人に達している。しかし、この数字には何十倍も伸ばせる余地がある。毎日安全でおいしい食品を食べたいものの、何らかの理由でそれが実現できていない人はまだまだ大勢いる。その理由とは、価格の問題だったり、調理時間や調理に対する知識がないといったことだったりする。今後はそういった課題を解決すべく、さらなる工夫と改善を重ね、売り上げを伸ばしていきたい」(高島氏)
高島氏は、食品を提供するうえで、安心、安全は当然のことという。オイシックスはおいしいものをいかにリーズナブルな価格、高い利便性で提供できるかに挑戦し続ける。どれくらいの笑顔が作れたかが評価基準だ。
プロフィール:オイシックス代表取締役社長 高島宏平(たかしま・こうへい)氏
神奈川県生まれ。東京大学大学院工学系研究科情報工学専攻修了後、外資系経営コンサルティング会社のマッキンゼー東京支社に入社。2000年5月退社。2000年6月にオイシックスを設立し同社代表取締役社長に就任。2005年 日本オンラインショッピング大賞・グランプリ受賞。2006年 「Entrepreneur Of The Year Japanファイナリスト」、2007年 「ヤング・グローバル・リーダー」で世界のリーダー150人に選出。同年、起業家表彰制度「DREAM GATE AWARD 2007」、企業家ネットワーク主催「企業家賞」受賞。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 日本の働き方に革新をもたらしたい――アデコ 奥村社長
- 革新を支える「現場力」――コマツ 野路社長
- ネット証券業界を先導し続けてきた革新者――松井証券 松井社長
- 顧客や消費者の本音を徹底的に掘り下げる――イケア・ジャパンの成長を支える若き日本人幹部の比留間氏
- 既存市場でシェア争いはしない――個性あふれる商品でコンビニやスーパーの棚を占める安曇野食品工房の三原社長
- データは分析してこそ価値――日本企業の苦手、情報活用に目を付けたブレインパッドの草野社長
- 業界の常識を疑うことが変革の出発点――ソニー生命の橋本常務
- お客様に導かれ「勝てる構造」を研ぎ澄ます――アスクルを進化させ続ける岩田彰一郎社長
- 異業種同士のジョイントベンチャーで市場の活性化を――ネットや携帯の広告市場を切り開いてきた電通デジタル・ホールディングスの藤田明久氏
- コミュニケーション能力こそ生産性向上の鍵──SMBC日興証券でマネジメントの革新に取り組む軒名彰常務執行役員
- グローバル時代に勝ち残る理想のホテルを作りたい――横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズを「変革」する鈴木朗之社長
- 社会を見すえ、自分たちのミッションを考える――出版関連業界の再編を目指す 大日本印刷森野鉄治常務
- イノベーションはどんな遊びよりおもしろい――クレディセゾンを挑戦し続ける企業に変えた林野宏社長