経営者たるもの、経済の流れを正しく認識すると同時に、家電メーカーの失敗に大いに学ぶ必要がある:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(1/2 ページ)
経済のグローバル化に伴う時代の変化には、すさまじいものがある。伝統ある大企業でも、経営判断を誤ればたちまち危機に陥ってしまう。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
経営者の中には、「経営」と「経済」を切り離して考えている方々が多く見られます。世界一あるいは日本一の評価が得られる商品を持っていれば話は別ですが、それ以外のケースでは、会社が大きくなれば大きくなるほど、経営者は経済の大きな流れを認識しながら経営を進めていく必要があります。さもなければ、経営が失敗してしまう可能性が高まってしまうからです。
2000年代に入ってから、日本の名だたる大企業の経営者たちも、経済の大きな流れに対する認識が薄かったために、2006年には米国の住宅バブル崩壊の兆候が見え始めていたにもかかわらず、最もやってはいけない時期に、設備投資や採用を拡大していたのです。そのことについて、私は当時、拙書などで警鐘を鳴らしていましたが、その後の2008年〜2009年には、多くの大企業が巨額の赤字を計上せざるを得なかったのは、皆さんもご存知の通りです。
第1に経営者たるもの、経済の大きな流れを正しく認識する必要があると思います。
では、経済の大きな流れはどうなのかというと、世界経済および日本経済は少なくともあと5年間は停滞、低成長を余儀なくされるでしょう。今のところ、世界経済の不安定要因となっている米国家計の借金問題、欧州各国の債務問題はともに長期化する公算が大きく、世界の先進主要国は「財政再建」という重荷を背負わされることになるからです。米国、欧州、日本のいずれも大規模な財政赤字を抱え、その再建を進めていかなければなりません。したがって、景気浮揚のための財政出動という政策はあまり期待ができません。
第2に、経営者たるもの、家電メーカーの経営における失敗からも大いに学ぶ必要があります。
なぜ、シャープやパナソニック、ソニーなどの家電メーカーが海外勢に大敗北を喫したのでしょうか。現在、日本の製造業が「6重苦」といわれる大変厳しい事業環境下に置かれているのは事実です。「6重苦」とは企業経営者らが海外と比べて日本の事業環境が直面している不利な要素を指摘したもので、具体的には(1)円高、(2)高い法人税率、(3)過剰な雇用規制、(4)厳しい温室効果ガス規制、(5)自由貿易協定の遅れ、(6)電力供給の不安、の6つを指しています。
苦境に陥った日本の家電メーカーにも、急激な円高や割高な電気料金などのインフラコストに加え、競合する海外メーカーが日本に比べ低い法人税率や優遇税制などの恩恵を受けていることなど、自身の力ではどうすることもできない逆風要因があったことは確かでしょう。
しかし、シャープやソニー、パナソニックといった日本を代表する家電メーカーが苦境に陥った要因を「6重苦」という外部要因のせいだけにすることはできません。日本がデジタル家電の大敗戦に至った背景には、日本の経営者たちによる重大な経営判断の誤りが重なったことを指摘せざるを得ないからです。では、重大な経営判断の誤りとは、具体的には何を指すのでしょうか。
わたしは、薄型テレビに代表されるデジタル家電において日本が敗れた要因については(1)設備投資の時期の誤り、(2)生産方式の誤り、(3)マーケティングの誤り、という3つの大きな誤りが重なったことによるものと考えています。詳しくは新刊『日本経済大消失 〜生き残りと復活の新戦略』(幻冬舎)の中で述べていますが、ここではそのことを象徴する自らの体験談を紹介したいと思います。
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