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経営人材育成の前にある、3つの壁(前編)次代の経営人材をつくる 3つの壁と成功の鍵(2/2 ページ)

2000年代に入り経営の難易度、複雑度は急激に高まっている。現経営陣で対応していくことは難しく次代の経営者に対する期待は高まっている。

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経営人材育成に不満足な企業は8割 〜立ちはだかる3つの壁〜

 そのような経営者の需要に対して、供給が間に合っていない。理由は、候補者そのものがいないことならびに育成法が確立していないことにある(注3)。結果として、8割の企業が「経営人材育成に満足していない」と回答している(注4)。「経営人材をつくる」ことが容易でないのは、候補者そのものがいないことや育成法が確立していないこともあるが、従来の人事慣行と相容れない、もしくは短期的な業績とトレードオフになるから、育成施策が実施できないという声もある。実際、それらが壁になって、施策を前に進めることができない。具体的に、それはどういう壁だろうか。

 1つめの壁は、「選抜」という概念である。全員が経営者になるわけではないから、選抜して、集中的に育成するということは、合理的な施策である。しかし、従来の人事が大切にしてきた「平等」という概念に抵触する。

 成果主義人事を導入して、年功的な運用ではなく、同期でも差がつくような施策をすでに実施している企業であれば、その壁はすでに乗り越えているが、企業によっては、平等主義の壁はまだ存在している。

 ただ、ここで注意したいのは、年功的な運用は遅れていて、成果主義人事のほうが優れているという話ではない。年功的な運用を施し、長年にわたって、入社同期が切磋琢磨し、高いモチベーションを発揮し続け、企業は成果を上げ、個人は成長し続けることができれば、それはいい施策である。実際に、年功的な運用を行い、年齢が高い順から役職に就いていき、業績が高い会社は存在する。

 2つめの壁は、「配置」の壁である。多くの会社が、この壁で苦労している。早期選抜し、研修を受けさせるのだけど、育成させるための配置ができない。ゆえに、研修で身につけたことを実践させることができないという壁である。部門で優秀な人を推薦して、その後、その優秀な人材を、育成のために他部門へ異動させるならば、当該部門は、優秀な人材を推薦したいというインセンティブは働かないということも、壁を高くしている。

 研修を受けさせることと配置させることは、両方とも人事施策であるが、実施という観点では、雲泥の差がある。研修の実施は、土日に実施すれば、日常業務に支障はでない。そのことによって、受講者は新たな視点を得ることができる、あるいはモチベーションが高まると思われるので、職場の上司も喜んで送り出す。しかしながら、異動となると、職場の上司の抵抗が大きい。経営者候補であるので、職場では、抜かれたら困るエースである。喜んで異動に賛成する上司は少ない。

 全社経営の視点でも、現部署で業績を上げている経営者候補人材を、別の部署へ異動させることは、短期的にはマイナスの影響を及ぼす可能性が高い。抜かれた部署の業績が下がることとともに、異動先でも、エースといっても、慣れていない仕事をするわけだから、十分なパフォーマンスが上がる保証はない。さらに、そこで候補者に成長につながる修羅場経験をさせると、つぶれる可能性もある。経営人材の配置という施策は、短期、中長期でのリスクとリターンを考慮し、実施する必要がある施策である。

 3つめの壁は、「現経営幹部の早期ポストオフ」の壁である。若くて優秀な人材を早期に昇進させて、主要なポストに就かせるためには、空いているポストがなければならない。成長著しく、ポストが余っているのであれば問題ないが、多くの日本企業では、ポストは足りない。その場合には、そのポストに就いている経営幹部に退いてもらわなければならない。現経営幹部のパフォーマンスが悪ければ、ポストオフすることの合理的な説明ができるが、そうでない場合の運用は、きわめて難しい。

 現経営幹部のポストオフができなければ、早期に優秀な人材を選抜したが、ポストの提供はいつまでもできないという状況に陥る。ただし、ポストオフ、ポストの提供はゼロイチの話というよりは、会社の発展状況、次世代リーダーの必要度/緊急度、現経営幹部の状況、若手経営者予備軍の育ち状況の関数で、実際の人事は決まってくることは言うまでもない。

(注1)「RMS Research 経営人材育成実態調査 2012」より

(注2)同調査で、72.9%の企業が「現経営者では今後対応できない」と回答している

(注3)同調査で、83.7%の企業が「経営候補者不足」、82.3%の企業が「育成方法が確立していない」と回答している。

(注4)「RMS Research 経営人材育成実態調査 2012」より

著者プロフィール:古野 庸一

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所所長

1987年リクルート入社。南カリフォルニア大学ビジネススクールでMBAを取得。リーダーシップ開発、キャリア形成に関する研究を行うかたわら、事業開発、コンサルティングの仕事にも携わっている。多摩大学非常勤講師。著書に『いい会社とは何か』(講談社現代新書)、『リーダーになる極意』(PHP研究所)、『日本型リーダーの研究』(日経ビジネス人文庫)。訳書に『ハイフライヤー 次世代リーダーの育成法』(プレジデント社)など。論文に「『一皮むける経験』とリーダーシップ開発」(共著、『一橋ビジネスレビュー』2001年夏号)など。


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