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新年度がスタートしたが、いかがお過ごしだろうか。アベノミクスの影響で景気が少し上向きつつあるとも聞く。人事異動があったり、新入社員も入ってきたり、活気づいているだろうか。新年度を迎えたこの時期だからこそ、改めて考えてほしいことがある。それは「人と組織」についてである。
<事例>
ある住宅設備機器メーカーの営業部に、新入社員Z君が配属されてきた。3週間の新入社員研修を終えてきたばかり。彼は先輩のA君のもとでOJTを行うことになった。A君は入社4年目。営業部ではトップ3に入る業績を上げてきた。OJT初日。
A君:Z君、営業部に配属されてどう? 今日からは僕がOJTでいろいろ教えていくからよろしくね。
Z君:先輩、よろしくお願いたします。いろいろ学びたいと思っています。
A君:ところで営業で一番大切なことは何だと思う?
Z君:何でしょう。研修では、お客さまの声に耳を傾け、ソリューションを提供することだと学びました。
A君:生ぬるいな…。もちろんそうだけれど、一番大事なのは、「売上を上げる」ことだよ。営業だから当たり前だろう。売上を上げなければ、いくらお客さまの声に耳を傾けたといっても全然評価されないよ。
Z君:確かにそうですね。僕は学生時代にコンビニでバイトをしていました。いろいろ工夫をしてその店舗でアルバイト1位になったこともあるんです。期待していてください。
A君:そうか、それは期待できるな。売上を上げれば、どんなことをやってもみんなだまるんだ。
Z君:肝に銘じておきます。
A君:よし。それでは、これから大得意先のX社に行くぞ。あそこは担当者がゆるくて、こちらがゴリ押ししたら断らないんだよ。
Z君:えっ、それって必要ない物も押しつけているということですか。
A君:聞き捨てならないな。必要だというから売っているんだよ。
Z君:そうですか……。
勝つことだけを教えていないか
営業で一番大切なことは「売上を上げること」というA君。果たして本当にそうだろうか。
少し前になるが、日本柔道連盟が多くの不祥事を起こした。女子柔道の国際試合強化選手15人が、指導陣による暴力行為やパワーハラスメントを訴えた。そして、全日本女子ナショナルチーム監督である園田隆二監督は暴力行為を認め、辞任へと追い込まれた。
以前のこのコラムでも書いたが、スポーツで勝つことは大切である。しかし、柔道は武道のひとつであり、果たして「武道」の精神を教えていただろうか。試合に「勝つ」ことはもちろん大事である。ただし、武道で最も大事なことは「礼儀」である。勝ち負けに関係なく、相手に礼を尽くす。それが武道の精神である。礼儀は価値観にもつながり、この価値観が欠如していたから、このような不祥事につながったのである。ミッションが欠如しており、それでは人間的成長は果たせない。
翻ってA君。彼は営業部では売上さえあげていればいいと言う。果たしてそうだろうか。もちろん営業なので売上をあげないといけない。しかし売上をあげることだけを目標に掲げていていいのだろうか。売上だけを目標にすると、数字を稼ぐために相手が望んでいない物を売りつける状況にも陥る。
新しく入ってきたZ君は、研修で営業とは「お客さまの声に耳を傾け、ソリューションを提供すること」と学んできた。それが本来営業がすべきことのはずである。しかし、売上を上げることだけを目標に掲げると、それが目的と化す。数年は勢いで続くかもしれないが、長期的には信頼は失い、成績を残すのはむずかしくなっていくのは目に見えている。
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