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日本企業を再成長に導く経営計画のあり方――10年後、20年後を見据えた自社のありたい姿を描くポイント視点(1/3 ページ)

日本企業を取り巻く市場や競争環境の質的・構造的変化は依然として厳しいものであり、多くの日本企業にとって過去から現在の延長線上に成長の絵姿が見えないことに変わりはない。10年先、20年先を見据えた成長の絵姿の明確化と、そこに向けた戦略と経営計画の策定がやはり不可欠なのである。

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Roland Berger
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今日、新聞や雑誌を賑やかしているのは、期待されているアベノミクス効果の持続性への懸念に関する記事である。現政権の経済政策が功奏することは無論喜ぶべきだが、日本企業を取り巻く市場や競争環境の質的・構造的変化は依然として日本企業にとって厳しいものであり、多くの日本企業にとって過去から現在の延長線上に成長の絵姿が見えないことに変わりはない。10年先、20年先を見据えた成長(ありたい姿)の絵姿の明確化と、そこに向けた戦略と経営

計画の策定がやはり不可欠なのである。本稿では、主に、10年先、20年先を見据えた自社のありたい姿の明確化の方法論と、その実践のために必要な体制や仕組みなどについて論じていきたいと思う。


1.10年先、20年先を見据えた自社のありたい姿の明確化と、その実現を目指した戦略と経営計画策定が必要

 “事業環境が不連続的である中、多くの日本企業にとって、過去から現在の延長線上で将来を予測してつくる2〜3年スパンの中期経営計画では大きな成長を成し得るのは難しい。” そうした観点から、筆者は昨年末の前稿(視点86号)にて、「日本企業は再成長に向けて経営計画のあり方を見直すステージにある。少なくとも10年先を見据えた“大胆なトップダウンによる自社のありたい姿”を明確に描き、そこからのバックキャスティング(将来のありたい姿からの発想)で足元の数年間をどう過ごすかを考えるべきである」と論じさせて頂いた。そうした計画に必要な要件は、「経営トップによる大胆かつ大きな成長方針の明示」「少なくとも10年先を見据えた長い時間軸」「成長領域へのリソース傾斜配分の盛り込み」だと考えている。

 実際、海外企業の中には、そうした経営計画によって成長を遂げている例が見られる。サムスンは、「Vision2020(2009年に策定)」の中で、長期的なグループ目標を売上高やブランド価値などについて絶対値で掲げ、各グループ会社毎に足元数年間の計画を策定している。56年連続で一株当たり配当を増やし続けているエマソン・エレクトロニクスでは、株主視点での長期的な価値目標(一株当たり利益や投下資本利益率)を設定し、外部環境の変化に関わらずその長期目標を実現するための3ヵ年の中期計画を策定し実行している。また、シェアを拡大し続けているフォルクスワーゲンも起こり得る複数の未来を想定した上で、10年先を見据えた中期経営計画に落とし込んでいる。

 日本でも、ユニチャームが、自社のありたい姿を10年後の市場環境予測から明確にし、そこからの逆算で足元の3年間の中期経営計画を策定している。三菱商事も今年度から従来の3ヵ年単位での中期経営計画を廃止し、2020頃の成長のあり姿からの“future pull”アプローチにより「経営計画2015」を策定している。

2.先読みの一つの方法論としての「シナリオプランニング」の有効性

 将来を見据えた自社のありたい姿を明確化し、実現に向けた戦略と経営計画を策定することは、将来の事業環境の変化を予測し不確実性が残るシナリオに対し“備える”ことに他ならない。「シナリオプランニング」という言葉自体は耳にされた方も多いことと思う。日本ではまだまだ浸透してはいないが、欧米企業では一般的に使われている先読みの手法である。

 ロイヤル・ダッチ・シェルの事例が有名である。1970年代には、将来の石油産業の情勢について「石油価格の現状維持」と「OPEC主導による石油価格の高騰(石油危機)」というシナリオを導出し、石油危機に対する“備え”を行ったことで業績悪化を回避。また、1980年代には「ソ連の現行体制維持」と「グリーン化(民主化)」というシナリオに備え、競合より迅速に天然ガスや油田の権益獲得で優位に交渉を進め莫大な利益を獲得した。

 フォルクスワーゲンもシナリオプランニングを活用した戦略策定を行っている。「都市化/技術優先で市場が変化」というシナリオに対しては「技術/環境分野でのリーダーシップ」、「新興国のモビリティ発達優先で市場が変化」というシナリオに対しては「BRICsを中心とした成長市場への注力」という二つの戦略を中期経営計画に落とし込んでいる。

 日本でも、先に触れたユニチャームでは、先ず2020年の定量目標として「世界シェア10%」「売上1.6兆円」「営業利益率15%」を掲げ、シナリオプランニングを活用して今後顕在化する市場を予測し、「アジア・中東・北アフリカでの女性用生理用品と子供向けおむつ市場におけるシェア拡大」と「グローバルで市場が成長すると予測されるペットフードと大人用おむつ事業の強化」という二つの戦略の柱を導出している。

 何か特別なことをやるような大仰な響きがあるが決してそうではない。多くの日本企業でも「事業環境分析」として戦略や経営計画策定時にはそれに近しいことに取り組んでいる。では、何が違うのか。大きくは2つの点が考えられる。一つは、事業環境の変化要因を抽出するものの、自社のビジネスモデル(成功要因)に対しインパクトのある機会や脅威としてのシナリオ構築が不十分で、戦略に反映できていない点である。もう一つは、その時折のプランニング担当者の属人的な能力や裁量によるため、連続性に欠けるものになってしまっている点である。シェルにしてもフォルクスワーゲンにしても、このシナリオプランニングに対しては継続的かつ組織的に取り組んでいる。

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