検索
連載

日本企業を再成長に導く経営計画のあり方――10年後、20年後を見据えた自社のありたい姿を描くポイント視点(2/3 ページ)

日本企業を取り巻く市場や競争環境の質的・構造的変化は依然として厳しいものであり、多くの日本企業にとって過去から現在の延長線上に成長の絵姿が見えないことに変わりはない。10年先、20年先を見据えた成長の絵姿の明確化と、そこに向けた戦略と経営計画の策定がやはり不可欠なのである。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena
Roland Berger
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

3.シナリオプランニングのステップ

 シナリオプランニングのステップについては、色々な整理の仕方はあるが、大きく5つのステップが必要と考える。(図表1)

3-1 時間軸、地域軸の定義と見るべき変化点の整理


図表1:シナリオプランニングのステップ

 そもそも将来の事業環境を読むからには、時間軸(5年先、10年先、20年先)と地域軸(日本、アジア、グローバル)は定義しておく必要がある。また、事業環境の変化点といっても見方は様々なので、自社のビジネス(製品やサービスなど)にとって何が重要か、コアコンピタンスや儲かる仕組みの構造を分析、理解の上、見るべき変化点を明確にしておくべきである。例えば「バリューチェーン分析」などにより、自社の競争優位性の源泉が何によってもたらされているか、或いは今後何を強化しなければならないかを知ることで、注視すべきポイントも整理できるはずである。

3‐2 環境変化要因の洗い出し


図表2:インパクト及び不確実性の評価軸

 見るべき変化点を整理できたら、それに沿って業界構造や将来動向を大きく左右すると思われる環境変化要因をできるだけ多くリストアップすることが必要である。「PEST」、「STEEP」や「5フォース」といった分析フレームワークを駆使して、「経済」、「政治」、「社会」、「環境」、「技術」、「市場/消費者」、「業界構造」などのカテゴリーに分類して整理していく。

3‐3 自社にとって重要な環境変化要因の選定(インパクト分析と不確実性分析)

 次のステップとして、洗い出された環境変化要因のインパクトと不確実性を評価する。(図表2)

 先ずはインパクト分析を行う。それぞれの環境変化要因が動いた際に、自社にどの程度のインパクトがあるのかを評価する。インパクトは、自社にとってポジティブなもの(機会)とネガティブなもの(脅威)に分類される。これらのインパクト分類ができたら、それぞれのインパクトの強さを評価する(例えば、非常に大きな影響をもたらすものを「5」、殆ど影響ないものを「1」といった具合に定量的に評価)。次に不確実性分析である。不確実性分析とは、設定した時間軸において想定されるそれぞれの環境変化要因の変動幅を評価することである。想定される変動幅が大きいほど不確実性は高く、変動幅が小さいほど不確実性は低くなる。


図表3:重要な環境変化要因の選定

 各環境変化要因の不確実性を評価した後に、インパクト分析と組み合わせて、自社の戦略や経営計画にとって重要な環境変化要因を抽出する。(図表3)

3-4 シナリオ構築

 自社が考慮すべき重要な環境変化要因が抽出できたら、ありたい姿の設定や戦略・経営計画の策定時に考慮すべき「シナリオ」を構築する。

 その際に留意すべきなのは、重要な環境変化要因を組み合わせて「異なった未来を描く複数のシナリオに集約する」ことである(3〜4つのシナリオへの集約が理想的。それ以上だと“備え”が分散する)。具体的には、重要な環境変化要因間の相互関係や因果関係を整理することで筋の通ったシナリオの塊にしていく。多くの場合、抽出した複数の重要な環境変化要因はそれぞれが独立した事象ではなく、お互いに相互関係や因果関係を持っているものであることが多い。この整理をしておかないと、仮に10個の重要な環境変化要因に対し、10のシナリオ、戦略を想定しなければならないし、似たようなあるべき姿や戦略になってしまうことにもなり、意味がない。

3-5 ありたい姿、戦略、経営計画への示唆出し

 複数のシナリオが構築できたら、各シナリオがもたらす10年先(或いは5年先、20年先)の業界構造や動向への示唆と、それを受けての自社のありたい姿や戦略の方向性に対する示唆を抽出する。

4.実践するために必要な仕組み、体制

 先にも触れたが、こうしたシナリオプランニングは一過性の取り組みであってはならない。我々を取り巻く事業環境は以前にも増して動きが早く不連続である。その中で一度立てたシナリオとそれに基づいた戦略や経営計画が永続的に有効であることなどあり得ない。環境変化に対応して、戦略や経営計画の修正・高度化のサイクルを回していける組織能力が、企業の長期的な競争力を左右する。

 例えば、シェルは社内に「専任のシナリオプランニングチーム」を擁し、40年近く組織的にシナリオプランニングを活用し、進化させつづけてきた。基本的に2〜3年に一度シナリオを大きく見直し、現在は「シェル・グループ・シナリオ2050」に進化させている。専任チームを抱える理由は「不確実性に満ちた世界の中で思考を巡らすのは、あくまで社内の人間であるべき」「また、戦略オプションの導出の際には、社内の人間に蓄積された自社の過去からの戦略的経路に対する熟知が不可欠」だとしている。

 また、フォルクスワーゲンも社内に「フューチャーリサーチ部」という専任チームを組織し、エコノミスト、心理学者、社会学者、生物学者などの専門人材を抱え、多面的に分析できる体制を整えている。もちろん、全ての会社がそこまでの体制を社内に抱えることはできてないが、経営企画部に近しい機能を持たせ、外部リソースを活用するといった手も考えられる。いずれにせよ、シナリオプランニングにはそれなりの時間と工数、専門性が問われることに間違いない。

Copyright (c) Roland Berger. All rights reserved.

ページトップに戻る