【新連載】忙しいのは当たり前。その中でマネジャーとして何をやるべきか:新時代のプレイングマネジャー育成法(2/2 ページ)
自らが先頭に立たないかぎり、外部の変化にコントロールされてしまう。自らの意志を持ち、周りに働きかけ状況を変える意志が必要である。
マネジメントの仕事には、魔法の杖がない
「経営者の役割」の著者であるチェスター・バーナードは、マネジャーの役割を「矛盾する要素、直観、利害、環境、立場、理想の折り合いをつけることこそ、マネジャーの役割」と表現している。「解決する」とは言わずに、「折り合いをつける」という言葉をあえて使ったことが、マネジャーの仕事は方程式のように簡単に解決する種類のものではないという意思が感じられる。
また、「マネジャーの仕事」の著者でもある経営学者ヘンリー・ミンツバーグは、「成功するマネジャーは、誰よりも大きな自由を手にしている人物ではなく、手持ちの自由を最大限活用できる人物のようだ」と表現し、簡単に大きな自由を手に入れるような魔法の杖はないという前提に立っている。
では、変化が激しく忙しい日々の中で、折り合いをつけ、手持ちの自由を最大限に活用するためには、いったいどのように仕事を進めていけばよいのか。
与えられたことだけでなく、自らの意志を持つ
先日、あるマネジメント向け育成プログラムにおいて、能力が高く、社内の評判も良かったBさんがプログラム後の感想で「自分の課題は、波に乗ることはできるが、波を起こすことができないことだ。"自分には色が無い"という事実と向き合いたい」と感想を述べた。上層部が掲げることをくみ取り、それを実行することが最も大事だと捉え、忙しい中でも対応してきた。しかし、次を見越して新たなものを創り出しているか、部下がどんどん成長できるような環境を創っているか、という観点では明確な意志を持たずに、物事を進めているだけの自分に気付いたのだ。
このようなマネジャーは実際多い。若手や中堅社員(マネジャー手前)向けにプログラムを実施すると荒削りではあるが、気概を持った目立つ人はいる。しかし、同じ会社であったとしてもマネジャー向けのプログラムを実施すると、平均的な能力は高いのだが、常に無難な落とし所に持っていくだけの人ばかりになる。マネジャーとは、疲弊しながら必死で働き、折衷案である無難な落とし所に持っていくだけの役割では決してない。
経営学者ドラッカーの言葉に「変化はコントロールできない。できることは、先頭に立つことだけである」という言葉がある。自らが先頭に立たないと、外部の変化に自分がコントロールされてしまう。そうなると、終わりのない忙しさが続き、どんどん疲弊していく。
先頭に立つということは、自分がマネジメントする組織をどうしていきたいのかという自らの意志を持つことである。上層部から言われたことをただ部下に伝えるだけではなく、意志を持つことで、周りからの必要以上のコントロールを防ぎ、組織をより良い方向に導いていくことが大事なのである。スーパープレイヤー止まり、ただの調整役止まりのマネジャーは必要ない。自らの意志を持って、周りに働きかけて、状況を変える意志が大事である。
組織の方向性であるビジョンを描いているか
皆さんは、「自分がマネジメントをする組織をどのようにしていきたいのか」という問いへの答えを明確に持っているだろうか?
それは決して上から与えられた目標ではない。「売上数字○億円達成」「中期経営計画で○○という方針が出たので、それを達成する」というだけでなく、それらを踏まえた上で、自分がマネジメントする組織をどのような状態に持っていきたいのか。どのような価値を提供し、どのようなプロセスで、どのような働き方をしながら、どのような風土で在りたいのか。といったものだ。
変化が激しい時代、特にマネジャーはマネジメント能力以上に、ビジョンを掲げて方向付けを行うリーダーシップが大切である。自ら意志を持って方向性であるビジョンを掲げ、部下を動機づけて自律的に行動するように促し、ビジョンをもとに優先順位の低い仕事を捨て、より価値ある仕事に集中する。このビジョンこそが、折り合いをつけ、手持ちの自由を最大限に活用するポイントになってくるのだ。そういった状態を実現するために、次回以降、ビジョンを描き、活用していくポイントについて、詳しく触れていきたいと思う。
著者プロフィール
上林周平
株式会社シェイク 取締役
大阪大学人間科学部卒。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。主に業務変革などのコンサルティング業務に携わる。2002年シェイク入社。各種コンサルティング業務と並行し、人材育成事業の立ち上げに従事。その後、商品開発責任者として、新入社員から若手・中堅層、管理職層までの各種育成プログラムを開発。また、2004年からはファシリテーターとして登壇し、新入社員から若手・中堅層、管理職層まで育成に携わった人数は1万人を超える。2011年9月より取締役就任。
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