CIOは自覚しているか──同時進行する4つのテクノロジーがもたらすITとビジネスの劇的な変化
日本アイ・ビー・エムは「変化するビジネス、進化するテクノロジー、CIOのチャレンジ」をテーマに「IT Leaders' Vision 2013」を開催。ビジネス環境の変化とテクノロジーの進化により、CIOが直面するチャレンジとその解決策を探った。
IT Leaders' Vision 2013の特別講演には、2013年5月23日に世界最高齢でのエベレスト登頂に成功したアドベンチャー・スキーヤー、三浦雄一郎氏が登場。エベレスト登頂プロジェクトを成功に導いた「チャレンジ、リーダーシップ、マネジメント」を講演。ビジネスにも共通する視点を披露した。
ブレることなく目標に向かっていく覚悟
三浦氏は、「今回のミッション大きく2つ。まず1つめは、世界最高齢である80歳でエベレスト登頂を成功させること。そして2つめは、チーム全員が無事にケガなく下山できること。この壮大なミッションを、チームワークと運により成し遂げることができた」と振り返る。
エベレストは標高8848メートル。平地での空気中の酸素量は21%だが、山頂の酸素量は平地の3分の1となる。三浦氏は、「一般的に8000メートルを超え地帯を"デスゾーン"と呼んでいる。デスゾーンという呼び名は、"この世とあの世の境目"を意味している」と話す。
今回のエベレスト登頂は、決して容易なものではなかったが、自らの年齢と身体条件を考慮した「年寄り半日仕事」というマネジメントが成功の最大の要因という。また、手巻き寿司やお茶会でリフレッシュするなどの、チームで楽しくする工夫も忘れなかった。
衛星携帯電話で東京の事務所に電話をかけたり、インターネットを使って気象情報を入手するなど、ITの活用も山頂のアタックに役立ったという。最後に三浦氏は、「リーダーとして必要なのは、どうすれば山頂にたどり着けるか、あらゆる手段を考えること。どんなことがあっても、ブレることなく目標に向かっていく覚悟で取り組むこと。ただし、どうせやるなら楽しく仕事をすることを忘れてはいけない」と話し、講演を終えた。
ビジネスを「支える」からビジネス機会を「創る」へ
三浦氏の講演に続き、日本IBM グローバル・テクノロジー・サービス事業担当である下野雅承取締役副社長執行役員がステージに登場。IT Leaders' Vision 2013のメインテーマでもある「変化するビジネス、進化するテクノロジー、CIOのチャレンジ」をテーマに、訪れつつある大きな変化と、CIOの課題について語った。
「ソーシャルメディアやクラウド、モバイルなど、テクノロジーのパラダイムシフトに加え、グローバリゼーションやさまざまな外的危機など、環境の変化が激しい現在、CIOはビジネスへの貢献や継続した企業の成長、スピード化、品質向上、リスク管理、コスト最適化など、多面的なチャレンジを受けている」(下野氏)
コンピュータの進化は、「計算器」が手作業の機械化を実現した黎明期から、プログラムでバックオフィスのコンピュータ化を進めた時代、クライアント/サーバー化とインターネット/Webの時代を経て、ソーシャル、モバイル、クラウド、アナリティクスの世界に向かっている。
「ソーシャルメディアの普及拡大はモバイルの発展と表裏の関係。ソーシャルとモバイルは大量の構造化、非構造化されたデータ(ビッグデータ)を生みだし、クラウドがビッグデータを蓄積、管理、分析するコンピューティング・リソースを提供する。これらは、もともとは別々にでてきたものだが、同時並行的に進化することで大きく社会とビジネスを変えようとしている。」(下野氏)
これが「SMAC(Social、Mobile、Analytics、Cloud)」と呼ばれる新しい技術の波だ。
また、コンピュータはプログラムに従って動くシステムから、自ら学習して認識するCognitive Systems(認識するシステム)に進化しつつあるという。IBMが技術を結集してこれを具現化、2年前の創立100周年に米国の人気あるクイズ番組で人間のチャンピオンに勝利したのが、質問応答システム"Watson"である。Watsonの技術は、医療分野や薬物間の相互作用の検査、裁判の判例を参照、金融分野の仮説検証や法令順守など、さまざまな分野への応用が期待されている」(下野氏)
下野氏は、「変化するビジネス、進化するテクノロジーというパラダイムシフトの中において、CIOはITによりビジネスを支えることから、ITによりビジネス機会を創ることへとチャレンジする領域を拡大していかなければならない」と話している。
パネルディスカッション:「ITへの期待と課題」
ITがない時代の経営から、1980年代のIT革命を経て30年程度の歴史の中で、ITによりビジネスを変革していく時代に移り変わっている。CIOには米国の潮流にもあるとおり、テクノロジーとマネジメントの融合が求められている。さらに今後は、ソーシャル、モバイル、アナリティクス、クラウドのような新しいテクノロジーを活用することで、組織をいかに牽引していくかが重要なミッションになる。
アステラス製薬株式会社 コーポレートIT部 須田真也部長とアメリカンファミリー生命保険会社 福島行男顧問が登壇したパネルディスカッションではグローバル展開と、新たなビジネス開発や顧客開拓のスピードを速めるための武器として、テクノロジーや情報をいかに使って勝つ方法を見いだすかについて議論が行われた。
アステラス製薬は、現在、米州、欧州、アジアオセアニアとグローバル展開しており、さまざまな国の文化的背景やビジネス判断の基準などを知るのに、各地域の担当者間で徹底的に議論し、方策を決めていったという。ここで重要になるのが、各地域の担当者同士の合議で決めたということだ。そのため意識が統一され標準化などへの取り組みをスムーズに行うことができた。
また、ビジネスの変化に対応するために、ITのパワーを活用し実験の期間や、開発期間の短縮を実現している。また、MRが医師に動画、画像、プレゼンテーションなど情報を提供する際タブレット端末を活用するなどでモバイルを利用している。ITの活用でスピード感のあるビジネス展開が期待できると考えている。
一方、アフラックは、外資系企業の日本支社であるが、日本独自でオペレーション、マーケティング、営業、ITなどは、自由度の高い経営がなされている。一方で、国際会計基準(IFRS)への対応で、会計システムなどはグローバルで統合し、経営のスピード化を図っている。
そのような状況で、これまで保険商品は人脈により販売されてきたが、今後は所有する顧客データ、代理店の所有している情報、市場のデータを分析することで、どの世代にどの商品がどのような傾向で売れているのかを知り、顧客に合った販売方法が重要になると考えている。まさにビッグデータの活用が新たなビジネスを生むだろう。
これからのビジネスはITなくしては成り立たず、さらにそこにスピード感が必要になる。CIOにはバランス感覚を持って各部門の目標達成、新たなビジネスモデル実現のためのオーガナイザーとして能力が要求されると、福島氏は締めくくった。
オープンテクノロジーがSMAC実現のカギ
最後のセッションに、日本IBM GTS事業 ITSデリバリー担当の小池裕幸執行役員が登場し、「次世代を見据えたITインフラストラクチャーのアプローチ」をテーマに講演。安定したサービス提供という伝統的な役割に対し、SMACの時代に求められるCIOの選択と決断。それに対応するITインフラストラクチャーのあり方について実例を交えながら紹介した。
小池氏は、「売上や利益拡大に貢献するためには、新しいITの考え方、アプローチが不可欠である。そのために目指すべきは、"個"客との接点を増やし、とるべきアクションの分析精度を高め、アプリケーションを短期間で作成、更新して自動最適化を実現するITインフラである。このようなシステムをSystems of Engagementと呼び、従来のコンピューティングを、主に企業活動の根幹をなすデータを記録したり処理することからSystems of Recordと呼ぶが、これらを両立することが必要」と話す。
Systems of Recordでは堅牢性、データ保全性、定型対応が重要だった。一方、Systems of Engagementでは素早く頻繁にアプリケーションを改良することが重要になる。
ある米国企業では、ソーシャルメディアに商品やサービス、ブランドに対する投稿が120万件ある。その中の1300件あまりが貴重な情報で割合にすると0.1%強でしかないが、このうち営業アクションにつながるのが1日あたり150件。少なく見えるが、これにより年間で420億円の売上増につながった。
「こうした事例が、SMACが注目される理由」と小池氏。SMACを支える技術要素で重要になるのがオープンテクノロジーである。これにより、アプリケーションのポータビリティが実現され、ベンダーロックインされることなく、アプリケーションのライフサイクルに合わせて異なったクラウドや、オンプレミスを最適に選択してシステムを稼働できるようになる。
IBMでは、OpenStackやOASIS TOSCAに積極的に参加、また買収が完了したSoftLayerなどの技術を提供することでオープンテクノロジーを推進している。
パネルディスカッション:「今、そして5年後のITとCIOのリーダーシップ」
ITインフラストラクチャーに関して、これまで企業の情報システム部門は、何よりも安定稼働が求められ、コストを抑えながらそれを実現することに腐心してきたと言っていい。しかし、時代は新たな「パラドックス」への挑戦を求めている。それは、「安定稼働かつ低コスト」でITサービスを提供しつつ、急速なビジネスのデジタル化に伴う、新たなビジネスの迅速な実現や、顧客接点の強化をテクノロジーで支援していく「スピード」も同時に求められているということだ。
キヤノンマーケティングジャパン IT本部 IT戦略企画部 徳原弘志部長と東京海上日動システムズ エグゼクティブオフィサー 小林賢也ITサービス本部長が登壇したパネルディスカッションでは、「安定稼働かつ低コスト」という、これまでのITサービスの課題をどのように克服したのか、さらには迅速な顧客接点の強化やビッグデータ活用の取り組みについて議論が深められた。下に2社の、現在の課題に対する取り組みを一部紹介する。
キヤノンマーケティングジャパンでは、グループ全体のシステムの最適化、顧客コードや商品コードの統一、業務プロセスの明確化などを実施し、安定稼働、コスト削減につなげている。社長直轄のIT戦略専門委員会を立ち上げ、ITが経営にどう貢献するのか、常に見直しに取り組んでいる。
2011年の東日本大震災直後には、仮想化の技術を活用し、安定稼働を実現するため沖縄にバックアップセンターを立ち上げた。また、営業、サービス部門中心にノートブックPCを1万5000台、スマートフォンを約6000台導入し、社内SNSによる情報提供を活用しその場で顧客の課題を解決できるようにするなど、モバイルの活用も進めている。今後はビッグデータの分析からサービスの向上につなげていくことを検討している。また、クラウドサービスの利用には、チェックポイントを設け、要件を満たしたサービスのみを使用し、今後も積極的に活用しコスト削減につなげたいと考えている。
東京海上日動システムズでは、保険企業のビジネスプロセスはほとんどシステム化されており、「ビジネス」イコール「システム」なので安定稼働には最優先で取り組んでいる。ビジネスを成功に導くためにはビジネス部門とシステム部門の連携が欠かせず、アプリケーションの設計を一緒に行うなど無駄のないシステム構築を行っている。また、メンテナンスコストの見える化など、数値を提示することで問題を浮き彫りにし、サービスに合わせた品質の提供などでコストコントロールしている。
新たな取り組みとして、タブレット型端末を導入しその場でペーパーレスで契約ができるサービスを始め、顧客と代理店双方の手間を大幅に省くことができた。若年層の行動に合わせ、ホームページのマイページにモバイルからアクセスし、申し込みができるなど保険を身近なものとして捉えてもらうような工夫もしている。コールセンターで収集した顧客の声を分析し、新たな商品開発につなげていく。
今、IT部門にはコストと開発期間を半減することが求められている。インフラはできるだけ集約し、仮想化とクラウドの活用でランニングコストを下げている。またアプリケーションは作りこまずスピード化に対応している。CIOに与えられた課題は困難だがさまざまなテクノロジーを活用しながら、新たなビジネスモデルにチャレンジし続けていきたいと、東京海上日動システムズでは考えている。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エグゼクティブ編集部/掲載内容有効期限:2013年11月21日