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今こそ問われる新規事業開発の在り方視点(2/3 ページ)

製品・サービスの陳腐化が加速度を増す中、新規事業開発の重要性が増している。ありがちな失敗パターンは、在るべき開発プロセス・体制は何かを探る。

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Roland Berger

3.3 発案者の巻き込み方が不適切

 繰り返しになるが、新規事業開発はリスクが大きく、難度も高い。失敗すれば、経営トップですら責任を取らされる事がある。それでも新規事業を前向きに開発・推進していく道を切り開けるのは、新たな事業が会社の明るい未来に必ず繋がっていくと信じられる人材、即ち発案者とそれを後押しする経営トップだけだと認識してほしい。

 新規事業開発を専門に行う部門を設置すること自体は正しい。だが、発案者から事業アイデアだけ吸い取ってしまい、発案者は現業部門のままという状況をよく目にするが、これは絶対に避けなければならない。人事の硬直性が壁になっていることは理解するも、発案者ほど事業に対する思い入れ・愛着を持っている人材はいない。このような人材の夢をサポートするのが、新規事業開発部門の重要な役割の1つだと再認識し、事業開発の具体性が増してくる段階では、必ず発案者を巻き込むべきだ。

 日本企業の成功した新規事業の多くが、カリスマ経営者発案の事業に偏っているのは、「発案者=経営トップ」の状態で、自らが陣頭指揮を取れる状態にあるからだ。

3.4 保有技術・特許だけで着想してしまう

 メーカーによく見られるパターンとして、自社で眠っている技術・特許を活かして何かビジネスが出来ないかという発想にとらわれ過ぎることがある。結果、需要なき新規事業を創りだして、失敗・撤退に終わる。

 先に挙げた富士フイルムやユニチャームは、自社保有技術の他事業転用がうまくいった事例だが、成功の裏側には、技術もさることながら徹底したマーケティング調査・分析・戦略立案がカギになっている。

 技術とマーケティングは両輪であり、どちらか一方だけで事業構想を練るのは大きな間違いである。即ち、両者の知見を融合しうる体制づくりが必須といえるだろう。

4.成功に導く新規事業開発プロセスの提言

 これまでありがちな失敗パターンを俯瞰してきたが、数多くの新規事業開発に携わってきた経験に基づき、本項では新規事業開発を成功に導くためのプロセス・手法を紹介したい。(図2)


図2:新規事業開発プロセス

4.1 トップのコミットメント取得

 何よりも大切なのは、経営トップの新規事業にかける思いの強さと覚悟である。リスクの高い新規事業を組織として推進していくには、経営トップが情熱・思いを日々発信し、全責任をトップが負うことを心の底から従業員に理解してもらう必要がある。

 この条件が満たせないのであれば、どんな企業であれ、そもそも新規事業開発は諦めた方が良い。

4.2 開発・支援体制の整備

 経営トップのコミットが得られたら、トップ直轄の開発・支援体制を整備していく。とかく制度論を併せて議論したがるが、予算枠や権限規程などの制度設計は後回しで良いので、先ずは組織をつくることをお勧めする。寧ろ、トップが全責任を負うのだから、新規事業開発部門が動きやすいように、後付で制度設計すれば良い。逆に、制度が足枷となって、組織が動きづらくなることは絶対に避けなければならない。

 また人選にも気をつけたい。理想的な人材要件は次の3タイプである。

 第一は「アイデアマン」。社内の常識を非常識と捉え、自らの出世のために上司に迎合するような事はせず、べき論を振りかざせるアイデア豊富な人間こそ、新規事業に向いている。必ずしも社内で優秀と評価されていないかもしれないが、むしろ社内では”浮いている”社員のほうが良いこともある。年金ローン旅行やデパート共通商品券など次々と新規事業を開発・ヒットさせ、小説のモデルにもなった元JTBの大東敏治氏は、このタイプに近い人材であろう。

 次は「分析屋」で、常に冷静かつ客観的に高度な調査・分析を行えるスタッフも配置したい。次のステップで述べる新規事業案創出の仕掛けであがってくる事業案は、ダイヤの原石とゴミが混在しており、それを見極めるには、各案をつぶさに精査し、市場規模・収益性・競争環境などの裏取り調査・分析が必須となる。

 最後は「技術屋」で、技術的な知見を持つ専門職も必要だ。これは、先端技術を持つメーカーに限らず、小売・サービス業でも、オペレーションの高度化・効率化に対する目利き・助言を行う上で必要だ。

 これら3タイプの人材が社内に見つからないのであれば、その機能を社外の専門家に委ねるというのも有効な打ち手である。餅屋は餅屋なので、業者選定さえ間違わなければ、期待以上の成果が得られる。

4.3 事業案創出の仕掛けづくり

 新規事業案のロングリストは豊富なほど可能性が拡がるため、常に窓は広く開いておきたい。新規事業開発部門自らが発案するだけでなく、社内からのアイデア募集、社外事例の情報収集・意見交換などを組み合わせることが効果的である。その際、前述の通り、新規事業の定義づけを忘れてはならないし、一回限りの単発イベントになってしまわないようにも気をつけてほしい。

 特に、会社・業界を良く知る自社従業員からのアイデア募集は重要なカギを握る。参加意識を高める狙いもあるが、それ以上に地に足が付いた新規事業案の創出が期待できる。有志の従業員発案による企画コンペも勿論良いが、大概、発案者が偏る傾向にあるので、組織単位で競争心を煽る仕掛けを構築した方が成果を得やすい。

 但し、このような取組みで出てくる新規事業案は、発案者の業務内容・対面業界に閉じた発想が多く、事業の発展性という点で不完全な状態であることが多い。また、提案自体の具体性が欠けていたり、判断に必要な各種データが不備であることも多い。各事業案の良いところを抽出し、アイデアを複合化・補完して、ブラッシュアップ・再検証していくことは、新規事業開発部門の重要な役割の1つである。

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