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起業家精神を刺激する「ひねらん課」気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(3/3 ページ)

セプテーニ・ホールディングスは、ネットマーケティング事業を中心に、メディアコンテンツ事業、その他さまざまな事業を手がけている。今回は、社員約800人を有する同グループの社長・佐藤光紀氏に自身の組織マネジメント論について聞いた。

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マネジメントは「楽しくてラク」

佐藤:マネジメントは僕はそんなに辛いものだと思わなくて、むしろ楽しくてラクだと感じています。質問や対話によって、部下に成長のきっかけを与えることができたら、自分が直接実務を担当しなくても成果を上げることができるわけですから。部下が自分と同じ以上の成果を上げてくれるなら、プレーヤーよりマネジメントのほうが成果がより上がります。そういう発想でマネジメントをするとラクです。相手に成果を上げてもらうことは楽しくて仕方がありません。

中土井:「マネジメントの楽しさとは何か?」と聞かれたら、何と答えますか?

佐藤:組織が、想像していた以上の成果を出すかもしれないことです。マネジメントはスポーツで言うと、監督の役割になります。リーダーシップを発揮して、選手の能力を高めることに尽力し、選手を登用して、チームを作り、試合に赴く。ここまでは、試合に臨む前のマネジメントが力を発揮するところです。しかし、いざ試合をやってみると、監督が想像していなかったようなことが起こる場合があります。試合中に選手が成長したり、メンバー同士の連携によって思いもよらない躍動が生まれたり。これはたまらなく面白いです。

中土井:わたしは、自分の想像を超えるゲームができるような状態をまだ作り出すことができていません。それができる佐藤さんがうらやましいです。

佐藤:マネジメントを楽しくてラクな状態にするには、監督も汗をかいて、選手と一緒にたくさん練習をしなければなりません。ベストチームを作るために、一緒に仕事をしたり、プロセスを共有したりする。いつ成果が出るか分からないような泥臭いプロセスの積み上げが必要なんです。その結果が出た瞬間は楽しいし、ラクさせてもらってありがとうと思いますが、その前には結果につながらない努力もありますね。

中土井:佐藤さんは純粋に経営やマネジメントに打ち込んでいて、人をコントロールしようという感じがありません。スポーツの試合をしているような軽やかさがある。その軽やかさは、どこから来ているのでしょうか?

佐藤:試合をしている以上、勝利への欲求はありますよ。ただそれは単に競争相手に勝つということではなく、事業において大きな成果を上げたり、純粋に会社を成長させたいという欲求です。純粋な欲求という意味では、もともとミュージシャン志望だったことが関係しているかもしれません(佐藤社長は入社前、音楽活動をしていました)。音楽は、演奏する本人がエンジョイした結果として、聴いている人の心を動かすものです。それが楽しいし、好きなんです。

 わたしにとっては、会社や事業を作っていくことは、バンドメンバーを集めて、曲を作って、アレンジして、演奏して、拍手をもらうことと感覚的には一緒です。だからエンジョイできます。誰かにやらされているものと仕事をとらえてしまったら、このような感覚は持てないと思います。

中土井:「仕事」を「労働」ととらえるということですか?

佐藤:そうそう、「労働」です。本当は、仕事は芸術のようなものです。わたしにとっては、今仕事しているときの感覚は、音楽をしていたときの感覚と一緒です。

中土井:今の話を聞いて、スポーツと音楽がブレンドされたようなスタンスなのかと思いました。ミュージシャンの感覚でプロセスを楽しみ、アスリートのような感覚で成果に向かっていくというイメージです。そのスタンスで、経営を楽しんでいるという感じがしました。

佐藤:言われてみれば、まさにその通りですね。好きだから一生懸命になれて、楽しめるのです。

ラベルを取り払って、やりがいを考えてみる

中土井:マネジメントに対するスタンスあるいは哲学が、その人の中にあるかどうかが重要なのでしょうね。労働としてとらえてしまうと、マネジメントほど苦しいものはありません。

佐藤:つらいでしょうね。やらないほうがいいと思います。「労働」から抜け出すためには、自分は何をしているときが楽しいのか、何に喜びを見い出せるのか、やりがいを持てるのかについて考えることです。○○課のリーダーとかマネジャーという従来のラベリングにとらわれずに。

 人間は社会的な動物なので、会社・家族・友人・地域社会など、色々なコミュニティに所属して生きています。そこを見渡してみて、自分は何が楽しくて、どこにやりがいを持つことができているかを考えてみてほしいと思います。ラベルを外してみると、上司と部下の関係や会社の役回りの中にも面白さが見つかるかもしれません。

 単に勤めている会社をかえるとか、社会貢献だからNPOに行く、ということではなく、答えがその場にあることも多いです。きっと、面白いことはあります。ちょっとしたやりがいや、貢献していて幸せだなと感じる瞬間を見つけることが大切です。そうすると、同じ仕事をしていても、視点を変えることができます。自分がやりがいを感じられる部分に集中してみようというように、切り替えられるようになります。

中土井:お話を聞いていて、以前、リクルートのある人事担当者の方が言っていたことを思い出しました。リクルートでは、中途採用の面接の時に、「あなたは何をしたいんですか」と聞くそうです。そうすると、「何をしたいのか」を考えたことがない人は驚いてしまう。その様子を見て「この人達、どうやって仕事をしてきたんだろう」と思うそうです。仕事を通して何を実現したいのかを自分に問い、答えを出すには、さまざまなラべルを取り払わないとできません。

佐藤:個人的には、ラベリング、分類はイノベーションにとっての敵になることも多いと感じます。分類によって専門性が増すということはあるのですが、「ここまで」という範囲を決め、思考停止に陥るおそれもあります。例えば、医学では外科、内科、精神科というように分類してそれぞれ専門性を深めていきます。しかし、人間の体は全部つながっているわけだから、内臓だけ良くしても体全体が良くなるとは限りません。それと同じで、全体をとらえる思想が部分によって損なわれることはあると思います。だから、分類をいったんやめてみるのです。

 営業部、経理部、業務部、企画部というようなラベリングがされていると、それぞれの部署の専門的立場から意見を言うようになります。「営業部はこう言ってます」「企画部からしたらこうです」と。そういうときは、いったんラベルを取り払って、プロジェクトのゴールはどこなのか、みんなでどんな成果を上げたいのかを考えてみるようにします。より広い視野をもって、目的に対して貢献できることは何かを問うのです。

中土井:すごく大切なことですね。ラベルは手段のはずなのに、それが目的化してしまっている場合がすごく多いのかもしれません。

 最後に、管理職として働いている人、管理職になろうとしている人へのメッセージをお願いします。辛くてへこんでいる時に、どん底から抜け出すための秘訣みたいなものがあれば、教えてください。

佐藤:スポーツなどで、汗をかくのがいいと思います。身体を使って、汗をかいて忘れることです。

中土井:普段何かしていますか?

佐藤:ランニングと筋トレはずっと続けています。今年は、東京マラソンに出ました。

中土井:凄いですね。アクティブだなあ。いやあ、人生を楽しんでいる感じが伝わってきます。

佐藤:ありがとうございます、それだけは自信あります。

中土井:今日は、ありがとうございました!

プロフィール

中土井 僚

オーセンティックワークス株式会社 代表取締役。

社団法人プレゼンシングインスティテュートコミュニティジャパン理事。書籍「U理論」の翻訳者であり、日本での第一人者でもある。「関係性から未来は生まれる」をテーマに、関係性危機を機会として集団内省を促し、組織の進化と事業転換を支援する事業を行っている。アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア株式会社)他2社を通じてビジネスプロセスリエンジニアリング、組織変革、人材開発領域におけるコンサルティング事業に携わり2005年に独立。約10年に渡り3000時間以上のパーソナル・ライフ・コーチ、ワークショップリーダーとしての活動を行うと共に、一部上場企業を中心にU理論をベースにしたエグゼクティブ・コーチング、組織変革実績を持つ。


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