今30代に求められるのは後輩を育て、上司を動かす「アニキ力」:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(1/2 ページ)
企業の未来はこれまでの延長線上にはない。変革期には過去の常識が非常識になり、これからの世代に道を譲る必要がある。30代への期待は大きい。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
ビジネス書の著者たちによる連載コーナー「ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術」のバックナンバーへ。
「努力しているのに評価されない」「いつまでも下積みの損な役回りばかり」「20代ゆとり社員の後輩に手を焼かされる」。優秀な30代からこんなボヤキを聞くことが増えている。
英語、マーケティング、論理的思考力、経営戦略、IT、プレゼンなどなど。30代は厳しい就職氷河期そしてビジネス環境下で生き残るべく、各種ビジネススキル習得に努力を重ねてきた優秀な人材が多いと言われる。会社が用意してくれた研修でしか学んでこなかった40代50代とは対照的に、30代は常に市場価値を鑑みて主体的に自己投資をしてきた世代でもある。だからこそ、これまでの自己研さんが報われない葛藤を感じるのは理解できる。
私は前職リクルート時代から仕事や働き方に関するメディア編集長を務め、この国の「はたらく」あり方を四半世紀にわたって考察し続けてきた。2008年にコミュニケーションを鍵に人材育成や組織開発を支援するFeelWorksを創業してからは、日々さまざまな業界の企業経営者や人事の方々の相談に乗り続けている。その中で強く感じるのは、今の30代はそろそろ努力の方向を変えたほうがよいということ。そんな問題意識から1年かけて書きあげたのが「30代はアニキ力 〜後輩を育て、上司を動かす」(平凡社)だ。
業界や企業規模などによって多少の時間差はあるが、20代と30代では、求められる役割が変わってくる。20代は会社から与えられた仕事を自己完結できればよかった。つまり、プレイヤーとしてのスキルを高めることが評価や成果につながるといえた。しかし、30代になると、徐々にリーダーとして後輩やチームを率いて成果を出すことが求められるようになってくる。
名プレイヤーは名監督ならず。ステージが変わることで、プレイヤーとして優秀であることが逆にリーダーとして足枷になることもある。往々にしてぶち当たるのは、できる自分の視界から他者を見てしまうため、できないメンバーの気持ちが分からず、意図せず冷たい人間とのレッテルを貼られ、人の心をつかめずチームを束ねられないというもどかしさだ。または、自分は正しいことを言っているのに、上司や関係者が思うように動いてくれないというジレンマだ。
これらの壁を乗り越えるには、まずリーダーを目指す腹をくくることだ。そして、自分よりは経験知や能力が劣る後輩の面倒を見て、上司や経営層を動かし、より大きな仕事をなし遂げていく力を身につけていく鍛錬を始めることだ。求められるのは、OJTリーダーとしての力だ。これを私は「アニキ力」と定義し、20代にビジネススキル習得にかけてきたパワーを、30代はこの「アニキ力」習得に努め、目前に迫る管理職としての出番に備えることを強く推奨したい。
「会社人間に染まるより、市場価値のあるスキル習得に励んだほうが賢い」。そう感じる人も多いだろう。実際、巷では会社に頼らない自己武装こそが正しいという論が大勢だ。でもいかに最新のビジネススキルや知識を習得したとて、変化のスピードが速い昨今ではすぐにコモディティ化が起こり、さらなる最新スキルや知識習得に挑み続けなければならないのではないだろうか。またいかに勉強が得意だといえ、柔軟性や吸収力においてはいつか若手には勝てなくなるはずだ。まさにラットレース。そもそもネット社会においては、勉強した知識そのものにはあまり価値はなくなってきている。重要なのはそれら知識をもった多様な人たちを束ね動かす「アニキ力」のほうだと私は考えている。
「重責の割にペイの見合わない管理職にはなりたくない」。昭和世代の価値観を持ったままの上の世代と異なり、30代ではこう合理的に考える人も多いだろう。しかし、本当にあなたは今のポジションでメンバーの仕事をやり続けたいのだろうか。確かに現代の管理職は昔と比べて大変になってきていることは事実だろう。しかし、表面的な忙しさや大変さと裏腹にメンバー時代との視界の違い、仕事のスケールの大きさに醍醐味を感じている上司たちは意外と多いものだ。何より今の会社で働くことを決めたのはあなた自身のはずだ。
「そうは言っても上が詰まっていて、ポストは空いてない」。これもよく聞く話だが、社内や目先にとらわれず、もっと目を凝らして時代の変化を見つめ直すべきだ。私はこの国の会社組織はダイナミックに変化し始めており、優秀な30代には次世代リーダーとして熱い期待が寄せられていると実感している。
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