欧州メガトレンド:視点(2/3 ページ)
欧州の企業は、早くからメガトレンドを戦略の軸として考えてきた企業が多い。日本企業にとっても、今後の経営課題に対応する先行事例として参考にすべき点が多いのではないだろうか。
(3)世界の多極化とガバナンス機能の限界(A polycentric world but a growing governance gap)
a. グローバルレベルでみると、経済成長・人口増加に伴って、アジアへのパワーシフトが起こり、世界が多極化した構成となることは想像に難くない。それに伴い中国・インドが、米国・欧州・日本などに匹敵もしくは超える存在感・影響力を持ち、また一方で、インドネシア・トルコ・南アフリカ等も中間層増加によって、その重要性を増してくると考えられている。このような傾向は、ある程度の確度で予測できることではないだろうか。
b. しかし、同時に、国家という枠とは異なる単位での多極化も予想されている。メガシティ等の中には、従来国家が担ってきた機能を代替できるものの出現も有り得るだろう。また、ソーシャルネットワークや私企業の中にも、同様の重要な役割を果たす主体が登場するケースも考えられる。このような場合、一層分散化が進行し、全体としてのコントロールが難しくなる。さらに、金融危機・気候変動・資源枯渇等のグローバル規模での課題解決においては、国家の枠組みだけでは困難が見込まれ、全体のガバナンスに限界がある。そのため、一層国家以外の主体の役割が大きくなると考えられている。
個別の項目については、その他メガトレンドに関するレポートの内容と根底を通じるものが多いが、ESPASのレポートでは、最後にGreater uncertainties but broader opportunities(「不確実性の増大と機会の拡大」)、と締めくくっている。そこでは、Convergence and fragmentation; Human development and scarcity; Multilateralism and fragmentationの3つを指摘し、融合と分散が同時に生じることを示唆している。そして、欧州について、ソフトパワーを含めた影響力の維持・強化に向けたEU拡大を進める一方で、移民政策や超国家的な集団・組織との関係調整が課題である旨、同レポートでは指摘している。これまでも欧州では同様の傾向が見られてきたが、今後この傾向は強化されるだろう。
欧州は、その影響力の維持・強化に向けて、伝統的な欧州とは異なる国々も取り込みながらEUを拡大する一方、その内部では矛盾・亀裂を生じつつある。EUは2013年にクロアチアの加盟が実現したのに続いて、トルコ等へも拡大が協議されている。また、中近東・アフリカ等との連携も強化が想定される。欧州の南北格差が言われているが、長期的にはEUとしての体制維持のメリットが優先され、本格的な崩壊は起こらず、今後も拡大傾向と考えられる。一方で、短期的には期待値とのギャップや情報技術の普及による国家を超える集団の影響力が増大し、場合によっては欧州という括りを拒否する主張を繰り返す集団も出現するかもしれない。EUとしての集約する力と分散しようとする力が微妙にバランスを保ちながら、規模を拡大しているとも言えるのではないだろうか。
c.ビジネスへのインパクト
欧州では、メガトレンドの影響を受けて、市場環境の変質が起こる可能性があるのではないか。そこでは、絶妙の均衡を維持しながら、EUという市場の拡大が期待される。このような欧州の環境は、ビジネスにとってはどのような意味合いを持つのであろうか。
まず、市場としては成長市場を取り込みながら成長すると考えられる。企業としては、引き続きスピード感を持って事業拡大を推進していくことは言うまでもない。これまでに自前での展開だけでなく、M&A等を通じた積極的な展開を進めてきているが、EU周辺の成長市場への展開に向けて引き続きカバレッジの拡大が必要となる。また、都市化等の案件では、ビジネスサイズの大規模化・長期化の傾向もあり、これらを踏まえるとある程度現地へのリソース投入は不可欠になりつつある。
しかし、市場の分散化が同時進行していることを忘れてはいけない。これまでの人口統計学的には、中間層が大きく拡大するだけでなく、都市・ソーシャルネットワーク・思想等で括られる集団への帰属意識も強化されていく。これらの集団は、それぞれ異なるニーズを持つと考えられ、消費行動も多様化が進行する。また、これに影響され、企業活動も国という単位とは異なる軸で展開することが求められるようになり、欧州エリアを全体として最適化する施策が必要になるのではないか。これらの変化への対応を誤ると、経済環境の回復軌道に乗り切れないだけでなく、広範なエリアカバレッジを維持するだけの固定費をまかなえず、急激に業績が悪化するリスクが顕在化する。
欧州は、その国・文化の多様性から特に事業運営の難易度が高い(図表3)。エリアとしての融合が進行するのと並行して、内在する分散化圧力も強まる。紛争などの事象して顕在化するだけでなく、自らのアイデンティティの再定義に伴って消費行動や企業活動が複雑化することも考えられる。これらは、これまでの欧州の事業環境の見立ての変更を迫るものであり、業績の振れ幅の拡大を想定した体制作りが不可欠になるのではないだろうか。
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