欧州メガトレンド:視点(3/3 ページ)
欧州の企業は、早くからメガトレンドを戦略の軸として考えてきた企業が多い。日本企業にとっても、今後の経営課題に対応する先行事例として参考にすべき点が多いのではないだろうか。
3.今後のグローバル事業体制―― 変化への対応
上記では、欧州を中心にメガトレンド及びそれがもたらす事業環境の変質について考察してきたが、これはまさにグローバルマーケットの縮図とも言える。翻って考えるならば新興国での成長機会の追及による戦線の拡大及びそれに伴う事業リスクの広範化等への対応も必要ではないだろうか。
これらを如何にマネージするか、という点については、欧州をグローバルマーケットの縮図とすれば、欧州を出自とする企業に学ぶところも多い。実際、グローバル化で先行する欧州企業では、戦線拡大と事業リスクコントロールに向けて、様々な対応策が実践されてきている。
市場拡大に伴って、事業エリアは拡大を続けていく。しかし、時に外部環境の変化を契機として、揺り戻しが起こる。このような循環を乗り切る体制として、マトリクス組織を採用する企業は多い。事業軸とエリア・機能軸の力関係は、外部環境によって変化するものであり、必ずしも固定的なものではない。スイスのABBでは、過去の組織体制をみると、時期に応じて軸の強さを使い分けることで、市場環境へ対応している。事業部の権限を強化し、事業の幅を拡大していた時期を経て、よりエリアの括りでの効率化を目指す時期に移行してきており、外部環境・自社の業績に合わせて重みの置き方を変化している(図表4)。
ただし、軸の強さの使い分けは困難を伴う。特に、事業軸からエリア・機能軸への展開には、相当な労力が必要となる。この点、欧州企業では時限組織を立ち上げて短期間での成果を追求している例がある。シーメンスでは、リーマンショック後のグローバル化に対応するために、コーポレート部門のリソースを拡充し、迅速な展開を推進したが、その役割を終えると、コーポレート部門を一気に縮小するなどの対応をとっている(図表5)。また、グローバル化の過程で重要な役割を果たしたクラスター組織を解体し、カントリーからの直接レポートの体制に変更している。これは、上位30カ国で売上の85%を占める構造のために可能となる体制であるが、グローバルのカバレッジを完了した結果、自社が収益を上げられる地域の優先度をつけている事例と言える(図表6)。この点、これからグローバル化を考える日本企業に比べて一周先を行く事例ではあるが、グローバル企業が自社の体制を伸縮させている点は参考にするべき事も多い。
エリア・機能軸への転換は、厳しい事業環境への対応を背景とする場合も多々ある。しかし、そのようなケースにおいても、縮小均衡だけでなく、次の上昇局面に向けた準備を整えてきた企業が数多くみられる。製品・サービスのモジュール化・標準化、柔軟なサプライチェーンなどは、コスト削減にも寄与すると同時に、ローカル市場への適応において不可欠な仕組みとなり、ビジネスモデルを最適化する上で重要な要素となっている。これは、上記のような大企業に限らず、中堅企業のグローバル展開においても共通する特徴ではないだろうか。欧州の機械・部品メーカーの中には、顧客企業よりも高い利益率を実現している会社も多数存在する。
組織運営においては、軸の切り替えのポイントの判断が肝となる。積極果敢な事業拡大を冷静に見つめなおし、国・顧客セグメントなどの優先順位を再定義する。つまり、事業横断的な効率化施策を検討するタイミングの見極めが重要なのである。このような絶妙な運営を成功させるためには、外部環境の推移を踏まえた、大局的な観点が不可欠である。また、軸の切り替えに伴う摩擦を乗り越えるためには、トップダウンでのイニシアティブが一層求められるであろう。
著者プロフィール
菅田 一基(kazuki sugata)
ローランド・ベルガー 欧州ジャパンデスク/シニアプロジェクトマネージャー
米国系戦略コンサルティングファーム、国内金融機関(銀行、証券)を経てローランド・ベルガーに参画。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。電機、通信、医薬・メディカル、化学、機械、自動車、金融など幅広い業種の大手企業に対し事業戦略(新規事業)、M&A戦略(クロスボーダー)、PMI (海外買収子会社の統合)、グループ経営・組織再編(海外現地法人)、営業戦略、IT戦略などの豊富なプロジェクト経験を有する。現在は欧州ジャパンデスクのメンバーとしてフランクフルトに駐在し、欧州で活躍する日本企業の経営課題解決をサポートしている。
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