お客様本位――これこそがユナイテッドアローズの原理原則:ポーター賞企業に学ぶ、ライバルに差をつける競争戦略(4/4 ページ)
日本のセレクトショップとしてトップレベルの売り上げを誇るユナイテッドアローズ。その強さの源泉は何か。同社のコアコンピタンスについて、同社上席執行役員の佐川氏と一橋大学大学院の大薗教授が対談した。
大薗 チャネル戦略について、もう1つお伺いします。日本のアパレル業界は、百貨店をはじめ主たるチャネルの栄枯盛衰によって大きな影響を受けてきました。そうした中、ユナイテッドアローズはショッピングビル「LUMINE」やファッションECサイト「ZOZOTOWN」などと古くから関係を構築してきました。競合他社が苦戦した中、なぜうまく対応できたのでしょうか。
佐川 やはり、そこにお客様がいるからという基本理念に尽きます。それまで路面で店舗運営していた我々が最初に入居したのは新宿の「Flags」という駅ビルです。そのプロセスの中で、そもそも路面店にお客様が歩いて来るということが上から目線であり、こちらからお客様がいる場所に近づいていくべきだという議論があったからです。当時、駅ビルは今のようにお洒落ではありませんでしたが、そこに入居するというブランディング云々ではなく、お客様にとって利便性が高いかどうかで判断したのです。
ZOZOTOWNに関しても、当時はネットで洋服なんて売れるわけがないという風潮があった中で、きちんと顧客視点の考えを持っていた前澤友作社長のマインドにひかれたというのが背景にあります。
とにかくお客様とのタッチポイントを増やしたいという意欲があります。その精神でどんどんチャネル開拓を進めています。このチャネルの売り上げが飽和したから別のチャネルに行くという発想ではありません。ユナイテッドアローズの商品を欲しいと思っているお客様がいるからそこへ行くのです。そうすることで便利になるから。やらない理由はどこにもありません。
大薗 お客様のためなら何でもやるというイメージですけど、競争戦略の観点から見ると、何をやらないかを決めることも大事です。
佐川 トレンドマーケットよりも下のボリュームゾーンは手を出しません。そこに当社の競争優位がないからです。ユナイテッドアローズは、ちょっと憧れ感があるテイストや商品を求める消費者に応えていきます。そういうお客様がいるかどうかでマーケットを見極めています。
徹底したIT武装を
大薗 ユナイテッドアローズはITシステムへの投資も積極的です。MDプラットフォームや生産プラットフォームは経営支援システムとしてコアの業務を支えていて、さらに、オンラインセールスと店頭在庫情報をシステムでリアルタイムで共有しています。最近ではBYOD(私的モバイル利用)にも取り組んでいます。
佐川 ITシステムに対する投資意欲の高さは創業者の志向でもあります。GMS(総合スーパー)など米国の小売業は顧客に満足してもらうために、人間ではできない領域を徹底的にIT武装しています。彼らに対する憧れと、自分たちもやってやるという意思がありました。
実は、私はファッションアパレル企業のワールドからユナイテッドアローズに入社して、長らくITシステムを統括していました。まずは商品管理支援システム「MDプラットフォーム」を開発し、1年52週のマーチャンダイジングと在庫を計画、管理しました。
できる限りIT武装して生産性を上げるようにし、そこで浮いた時間をとにかく人間しかできないこと、つまり接客だったり、商品企画を考えたりということに割けるようにしています。それが結果的に切れ目なくIT投資をし続けている状況を生み出し、約20年間で頑強なITシステムが出来上がりました。これが必ず企業の競争力になるはずです。
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