お客様本位――これこそがユナイテッドアローズの原理原則:ポーター賞企業に学ぶ、ライバルに差をつける競争戦略(3/4 ページ)
日本のセレクトショップとしてトップレベルの売り上げを誇るユナイテッドアローズ。その強さの源泉は何か。同社のコアコンピタンスについて、同社上席執行役員の佐川氏と一橋大学大学院の大薗教授が対談した。
理念への深い理解と共感
大薗 企業内教育機関である「束矢大学」について、その特徴を教えていただけますか。
佐川 ヒト・モノ・ウツワを切り口とした研修を提供しています。例えば、接客(ヒト)であれば、メジャーリングや品質表示、購買心理を学んだりします。ただし、最も重要なのは理念教育です。理念に対する深い理解と共感が最大のミッションです。
「この人はユナイテッドアローズの理念にシンパシーを感じているか」など、入社段階である程度の人選はしているため、束矢大学での教育も、理屈でやっているというよりは、お客様本位という気持ちがある人に対して理念を上乗せしていく形です。
大薗 では、業務標準の作り方も、理念を十分理解した専門の社員が理念を仕組みに落とし込んだというのではなく、理念が沁みついている社員がうまく行動するために各部署で仕組みを整えていったら現在の業務標準になったということですね。
顧客にこちらから近づいていく
大薗 O2O(Online to Offline)にも力を入れていると伺いました。
佐川 店舗では商品を見るだけで、購入はネットで行うという方が増えています。他社にはせっかく接客したのにネットの成績になるなんてと思う販売スタッフがいるかもしれませんが、ユナイテッドアローズでは、ネットと店舗での売り上げの奪い合いということには発展しません。お客様がそれで良いのであれば尊重します。お客様にとって良いことであれば、どの部署に売り上げが付こうが関係ないのです。
実際、店舗スタッフがお客様をネットに誘導するような取り組みも始めています。例えば、20人のうち19人が試着しても購入せずに帰ります。そうした方々に試着した商品の品番をメモで渡して、「宜しければ後でネットでご確認ください」と伝えます。こうした活動を2年ほどやっていますが、今後もさらに浸透させていきたいと考えています。日本でここまでのことをできる会社はないと思いますし、ここまでいけば本物のO2Oと言えるでしょう。
ユナイテッドアローズのO2Oが進化しているのは、やはりお客様本位だからです。お客様がネットで商品を買うのは便利なので、そのために店舗に来て商品を手に取ってもらえさえすればいいのです。ユナイテッドアローズはネットも店舗もすべてお客様のためにあるのです。会社によっては、ネット部門だけを事業部にしているところもありますが、絶対にうまくいかないでしょう。在庫の取り合い、利益の奪い合いになり、お客様本位には成り得ません。
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