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動くイノベーションを捉える視点(1/3 ページ)

コンセプト主導型の製品開発以外でも、その場所を移動しながら発生するイノベーション。素材・部品から最終製品メーカーまで、企業がどのようにそれを捉え自分のモノにするべきかを考察する。

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Roland Berger

1、イノベーションは動く

 製造業では米国アップル社のiPhoneでの大成功以降、「こんな製品を市場に出したい」というコンセプト主導型のイノベーションが常に注目される。一部では、何故日本メーカーにはiPhoneが作れなかったのか、これから日本メーカーはどうすればiPhoneを作れるようになるのか、といった議論が行われ、かつてのようなデジタル家電での高いプレゼンスを取り戻すには、コンセプト主導型のイノベーションを起こす必要がある、といった論調の書籍や記事も散見される。

 しかし、イノベーションの主体は最終製品だけではなく、最終製品の販売までのバリューチェーンの各工程で起こり得るものであることを忘れてはならない。原材料の素材開発、部品の開発、生産技術に至る全てのバリューチェーン上の工程でイノベーションは発生する可能性があり、常にどこかでイノベーションが起きている。イノベーションは常に動いている。

 動くイノベーションを考える上でもっとも重要なのは、イノベーションがどこにあるのかを見極め、そのイノベーションどうやって捉えるかである。日系メーカーがそれぞれの分野で勝ち組として生き残るためには、常にどこかで発生しているイノベーションを自社の価値として取り組んでいく必要がある。

2、動くイノベーションを見極める

 イノベーションは、最終製品のライフサイクルが、導入期、成長期、成熟期、衰退期と移り変わる中で動いていきながら形を変えていく。また、イノベーションは前世代、現世代、次世代の製品ライフサイクルが交わる中で動いていくことに注意したい。(図A:参照)


製品サイクルの各ステージで動くイノベーション

 最終製品の導入期では、素材・部品そして生産技術が主体となりイノベーションが発生する。これは、前世代の製品で使われていた素材や部品の高性能化や小型化がイノベーションのキッカケとなることが多い。例えば、iPhoneが登場した背景には、日系メーカーが強かったガラケーで培った様々な高性能部品を流用したことがあるが、これらの高性能部品が更にイノベーションしていくことでスマホに適した素材や部品へと発展した。直近では、スマホでの活用で技術進化した様々な部品(バッテリー、処理演算機、メモリー等) の小型化や高性能化が引き金となり、次世代の最終商品としてウェアブルコンピューティングの登場が期待されている(Google 社のメガネ型コンピューターなどが一例だが、製品としてコンセプトが固まり、普及するにはまだまだ部品そのものの技術レベルの向上が必要)。

 成長期に入ると、素材や部品の技術発展の方向性はほぼ決まり、イノベーションは最終製品の製品開発そのものに移り、様々な製品コンセプトが生まれる。また製品コンセプトを実現するための作り込みやインテグレーションにおけるイノベーションも起きる。スマホでは現在の形に落ち着くまでにいくつかの発展があった。このコンセプト主導型のイノベーションは、成功すればその後の成熟期での爆発的な成功を収めることができるため、もっとも注目されるが、大量の新製品が消費者のニーズを捉えられず消えていくことも多い。そのため、成長期でのコンセプト主導型のイノベーションは、導入期や後述する成熟期、衰退期の上流でのイノベーションと比較して投資対効果は必ずしも高いとは言えない。どのコンセプトが生き残るかを見極めることが重要でもある。

 一方で、製品が成熟期、衰退期に差し掛かると、最終製品としての形は完成しているため、実装部品や生産技術は大きな改良を必要とせず、全体的な品質も安定する。例えば、iPhoneをはじめとするスマホはすでに完成形に近いといわれており、部品等のスペック争いはすでに収束しつつある。カメラの画素数を例にすると、800万画素以上のカメラ搭載は当たり前であり、それ以上の画素数は大きな差別化にはならない。

 このステージにある製品は、生産量を確保してコストを下げて売り切る、という低コスト生産力でのイノベーションが勝負の主体だ。そのため、部品は標準化されて分業化が進み、部品の組合せで製品化が可能にまでなっている。模造品も登場する中、価格争いは避けられず、多少の技術優位性では差別化は難しい。ただし、この後いずれ迎える衰退期に向けてやるべきことがある。次世代製品のライフサイクルへのシフトである。現世代の製品が成熟期に差し掛かると、活用していた素材や部品の品質は安定し、小型化や高性能化が進んでいる。これらの素材や部品を更に発展させることで次世代製品のコンセプト開発につながる。つまり最終製品の世代交代によってイノベーションはまた素材や部品の高性能化などの上流にもどる。

 素材・部品メーカー、生産技術を担う企業、そして最終製品メーカーそれぞれがイノベーションでリードするためには、対象となる技術・製品がどのライフサイクルのステージにいるかを見極めることが重要である。導入期にあるのであれば、素材・部品メーカーは技術争いが主体になるが、成熟期・衰退期にある場合は、とにかくコストを下げることに力を入れる必要がある。

 この見極めは大変重要であり、特に家電・半導体など動きの早い業界では間違った見極めは命とりになる。液晶パネルで強かったシャープや、リチウムイオン電池を初めて量産化したソニーがその強かった地位を失ってしまった背景には、この見極めの悪さがあったと考えられる。両社とも素材や部品としてのイノベーションに成功したが、その後動いていくイノベーションを見極めることができず、最終的にコスト競争力で韓国勢に負けた。

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