「クラウド・ファースト」で企業のイノベーションを加速させるマイクロソフト:IT Leaders xChange サミット 2014 Autumnレポート
日本マイクロソフトは10月1日、「IT Leaders xChange サミット 2014 Autumn」を開催。約200名が参加。レセプションには、米国本社Microsoft CorporationのCEO、サティア・ナデラ氏も駆けつけた。
IT Leaders xChange サミット 2014 Autumnは、より多くのお客様にマイクロソフトの戦略や最新情報を、タイムリーに提供するとともに、参加者が相互に意見交換を行い、さまざまな課題解決に向けた情報交換を行う場としてスタートした。
プログラムには、東日本旅客鉄道 常務取締役 CTO CIO 鉄道事業本部副本部長の澤本尚志氏と日立製作所 理事 IT統括本部長 大澤隆男氏をパネリストに、早稲田大学大学院教授/IT戦略研究所所長 根来龍之氏をモデレータに迎えて、「クラウドとプラットフォーム」をテーマにしたパネルディスカッションがあり、活発な意見交換が行われた。
企業とマイクロソフトの情報交換の場に
オープニングの挨拶に登場した日本マイクロソフト 執行役 専務 エンタープライズビジネス担当の小原琢哉氏は、「CEOにサティア・ナデラが就任後、“クラウド・ファースト”、“モバイル・ファースト”をはじめとするさまざまな戦略が次々と発表されている。例えば、新市場であるIoT(モノのインターネット)への参入や、Windowsのユーザー以外がOfficeを使用できるようになったiPadへの対応。パートナー向けには9 インチ以下のディスプレイを搭載した Windows スマートフォンとタブレットでは OS を無償化すると発表したほか、クラウド サービスの Microsoft Azure では Windows にこだわらない、マルチプラットフォーム戦略を強く打ち出した。こうしたさまざまな戦略をすばやくお伝えするために、イベントはもちろん、ウェブサイトや季刊誌、ニュースレター、ワークグループでの勉強会、海外視察ツアーなどで、情報交換や交流の場の拡大を目指している」と話す。
続いて参加者の代表として登場したソニー 業務執行役員 SVP/CIOの堺文亮氏は、「ITは常に進化している。それを活用できるかどうかは、企業の競争優位性を左右すると思っている。ITの進化にいかについていくか、活用していくかが重要」と話す。
さらに堺氏は「本日、新しいWindowsが発表されたと聞いている。このような単体の製品も大事だが、どのようにソリューションとして企業の中に組み込んでいくかがさらに重要である。そのためには、ソリューション力を磨き、日本マイクロソフトやそのほかの企業と協業することで、業界全体が発展することを願っている。ぜひ、このような機会を利用して、活発な情報交換や、勉強をしていきたい」と挨拶した。
「本物のクリエイティブ力」の磨き方
特別講演にはポルシェ、フェラーリ、山形新幹線「つばさ」などをデザインした、世界的に評価が高い工業デザイナー、KEN OKUYAMA DESIGN 代表取締役の奥山清行氏が登壇した。奥山氏は「1982年に米国に渡り、自動車のデザインを中心に活動していた。自動車のデザインは、スタイル重視と思われているが、社会の根幹をなす製造業ビジネスとして学ぶことが多かった」と話す。この経験を生かし、新幹線やトラクターに斬新なデザインを取り入れたり、企業へのコンサルティングを通じて新しいビジネスの創出に取り組んでいる。この日は自身の経験を通し、「本物のクリエイティブ力」の磨き方をテーマに話した。
奥山氏は、「イタリア人は個人個人で動いているように見えるが、実は団体力が強い。フェラーリのような優れた製品を生み出せるのは、議論を通じてベクトル合わせを行う仕組みが社会の中にあるからだ」と語る。議論に参加したメンバー個人のそれぞれの能力を引き出しあうことによって団体力を強め、クリエイティブなものづくりにつながっている。
一方、日本人は、個々ではすばらしい能力を持っているにも関わらず、団体になるとその力を発揮できない。「日本人は、団体では個人を消して、一員になりきるという教育をされているため価値ある議論がなされていない」と奥山氏は言う。
所属する団体の中で、自分は何を成し遂げようとしているのか、何を成し遂げるのが役割かなどを明確にし、自分の立ち位置を決めるのが議論である。きちんと議論することが、クリエイティブ力につながっていく。
これからの日本企業を支えるクラウドとプラットフォーム
「クラウドとプラットフォーム」をテーマに行われたパネルディスカッションで、根来氏は「昨今の日本経済を考えると、日本の強みをもう1度考える必要がある。半年のライフサイクルで高速に意思決定を行うのは、日本企業は苦手だといわざるを得ない。日本の産業でグローバルに展開できるのは、部品やインフラなどの中間的なもの。その基盤となるのがクラウドやプラットフォームだ」と語る。
澤本氏は、「JR東日本は鉄道事業をコア事業としてきたが、その次に駅や駅周辺を中心とした「駅ナカ」や「ホテル」などのビジネスを展開しており、駅を中心としたプラットフォームビジネスと言える。また、Suicaは元々は自動改札から生まれたものであるが、それをプラットフォームとして電子マネービジネスも進めてきた。海外事業については、JR東日本のオペレーションやメンテナンスなどを含めた経験を活かし、インフラを輸出していくことを考えている。」と語った。
また大澤氏は、「日立では、社会イノベーション事業にフォーカスしている。お客さまやステークホルダーの皆さまとエコシステムを構築することはもちろん、社内のさまざまな技術をつなぎ、それを掛け合わせてシナジー効果を生み出すことが重要。ハード、ソフト、サービスで構成される課題解決型のプラットフォームを提供する」と話す。
根来氏は、「鉄道のプラットフォームも、ITのプラットフォームも語源は同じ。土台や基盤になって、その上に何かを載せて価値を生み出す役割のものをプラットフォームと呼んでいる」と語る。
今後の取り組みを澤本氏は、「鉄道はさまざまなデータを保有している。新幹線の運行情報や設備などのメンテナンスデータ、年間約50万件に上るお客さまの声も蓄積されている。さらに駅ナカ・駅ビル、自動販売機などのデータも蓄積されており、2年前よりこれらのデータの利活用を模索している。一例としてスマートメンテナンスが可能となれば、個々の状況に応じたメンテナンスが可能となり、メンテナンスの質の向上と、コストダウンが両立できるのではないかと考えている」と話す。
また大澤氏は、「センサを使って情報を取得し、お客さま向け、販売店向け、社内向けに提供している。例えば、日立建機のGlobal e-Serviceでは世界100以上の国・地域で運用している機器の状況を遠隔で診断し、タイムリーな保守サービスや各種診断などに繋げている。今後は、お客さまの要望にいかに応えていくかが重要。クラウド活用で、お客さまとともにビジネスを創出していくことに取り組んでいきたい」と言う。
根来氏は、「情報共有においてクラウド化は避けられない。JR東日本も、日立も、プラットフォームビジネスを理解しているからグローバル化もうまくいっている。今回、短い時間だったが、両社のクラウドやプラットフォーム活用の一角を垣間見ることができた」とパネルディスカッションを締めくくった。
自社のIT活用をショーケースに最適なクラウド化を提供
マイクロソフト社内におけるワールドワイドでのIT活用の経験を踏まえ、お客さまのグローバルビジネスの迅速な展開をいかに支援できるかを、日本マイクロソフトのビジネスプラットフォーム統括本部 業務執行役員 統括本部長 梅田成二氏が話した。
2014年2月にマイクロソフトのCEOに就任したサティア・ナデラ氏は、サーバー&クラウド部門のカンパニープレジデント時代に、クラウド優先で開発プロセスを推進する「クラウド・ファースト」というコンセプトを打ち出している。例えばデータベース製品では、約3000人の開発者を、4人ずつの開発グループに分け、4週間ごとに新機能をクラウドサービスに追加し、年に1度、オンプレミス製品に反映するというスピーディーで高品質な開発プロセスを導入している。
クラウドサービスが稼働するマイクロソフトのデータセンターは、2005年までの第1世代がコロケーション、2007年前後の第2世代が高密度設計、2009年前後の第3世代がコンテナ型、2012年前後の第4世代がモジュール型へと進化し、将来的には第5世代となる統合型へと進化していく。
梅田氏は、「マイクロソフトのデータセンターは、常に低コストで高品質なコンピューティングパワーを提供することを目指している。また、ハード面だけではなくソフトウェアの活用やシステムの最適化、自動化によりそれを実現している」と語る。
例えば、レドモンド本社にある少人数のオペレーションルームで 全世界にあるデータセンターをリモート監視することで、人による作業の省力化とオペレーションの自動化により、さらにコスト削減を実現。
またスケールアウトとソフトウェア制御を徹底することで、従来の高価なハードウェアを積み上げて信頼性を確保するスケールアップ型ではなく、安価なハードウェアを使ってシステム全体での高可用性を実現。例えばデータセンターのネットワーク機器や関連ハードウェアに障害が出た場合でも、替わりのハードウェアに迅速に切り替えるサービス・アーキテクチャーの構成により、システム全体に支障なく直ちに対応できる、としている。
さらに、マイクロソフトは約2900本もの基幹業務系アプリケーションを持ち、そのクラウド化を進めているが、クラウドに移行するもの、しないものについてのアプリケーション分類方法としては、クラウド適用が問題にならないもの、クラウド移行による効果(ビジネス価値やコスト、時間、品質課題、セキュリティ)の有無、ROI的な優先付けの順番で移行候補の選定を行っている。こうした取組により、マイクロソフトでは30%の社内ITコスト削減に成功している。
一つの例として、例えば米国本社では、88エーカーの土地に125棟の建物があり、3万個以上のオフィス機器が1日あたり200万キロワットの電力を消費していた。クラウドを活用した省資源プロジェクト「88 Acres」の実施により、毎年6〜10%のエネルギーコスト削減と各四半期で3万2000件以上の作業効率化を実現している。
データセンターにおけるセキュリティの保護については、来日した米国本社Microsoftのリーガル&コーポレートアフェアーズのゼネラルカウンセル兼エグゼクティブバイスプレジデントであるブラッド・スミス氏が、「Microsoftの使命は、お客さまのデータを保護すること。より一層のデータ保護を目的に、いくつかの改善を行い、特に暗号化はかなり強固になっている」と話した。
Microsoftでは2013年12月より、サーバ上のデータ暗号化の強化はもちろん、データセンター間やデータセンターと利用者間の暗号化も強化。またいくつかの国に開設したトランスペアレンシーセンターで、データが本当に安全なのかを確認できるようにしている。
改善点の中でも他社に先駆けて実施したのが、契約書の中にお客さまのデータをセキュアな状態で保護する内容を記載したことである。例え政府からOffice 365やMicrosoft Azure、CRM Onlineなどのデータの開示要求があった場合でも、Microsoftが任意に開示することはなく、お客さまからの開示の判断に誘導すること、また仮にMicrosoftからの開示が強制される場合であっても、原則お客さまに通知の上で開示することを明確化している。スミス氏は、「お客さまのデータ保護をリードし続ける会社であることを約束する」と締めくくった。
梅田氏は、「マイクロソフトの社内IT部門は、IT利用のショーケースであることが期待されており、その要求を満たすサービスレベルを実現するインフラを持つことで、お客さま向けのサービス提供を高品質・セキュアなものとしている。また、お客さまに預けていただいたデータを保護することを契約に明記し、仮に政府から不当なデータ開示を求められとしても裁判に訴えるなど、お客さまのデータ保護に対する姿勢と取組を全社として徹底している。こういった前提のもと、これまでのクラウド活用の経験やノウハウを生かした、クラウド移行アセスメントサービスやプロジェクト単位でのコンサルティングなどにより、クラウドを利用したお客さまの新たなビジネスの立ち上げを、ビジネスパートナーとして支援していきたい」と締めくくった。
ワークスタイル変革実現のためのクラウド活用
マイクロソフトでは1993年から12年間、「ワークスタイル変革」を社内で推進している。ワークスタイルの変革により、いつでも、どこでも、だれとでも、どんなデバイスでも仕事ができる仕組みを実現し、業務の効率化と働きやすさの両立を目指している。今回、マイクロソフトのワークスタイル変革を支えているマイクロソフトのクラウドサービスや、クラウドの信頼性向上に向けた取り組みを、日本マイクロソフトエグゼクティブアドバイザー小柳津篤氏とプラットフォーム戦略本部長 業務執行役員 越川慎司氏が紹介した。
小柳津氏は、「ワークスタイル変革を実現するためには、ICT活用だけでなく、ビジョンや企業文化、オフィス環境、制度やポリシーなどの多様な取組みが必要になる。会社側の論理を従業員に押し付けるだけでは決してうまくいかない。一人ひとりの社員による主体的な働き方の選択を可能とし、仕事のやりがいや人生の幸福を実現していくことに、フレキシブルワークスタイルの本質がある。またICT活用では、簡単な操作で安全に利用できることが必要。俊敏性や柔軟性、グローバル対応などの仕組みも必要であり、そのためにはクラウドや新しいサービスの活用が重要になる。クラウドサービスを選定・採用には、信頼性や可用性が求められていることは言うまでもない」と話す。
マイクロソフトのクラウドサービスは、世界各国で運営されているデータセンターに支えられている。現在、全世界に80カ所以上のデータセンターを展開。300ペタバイトのデータが蓄積され、200以上のサービスが24時間365日稼働している。データセンターでは、3万人以上のクラウド関連エンジニアがサービスを提供。今後、5年間インフラ投資を倍増していくことを発表している。
越川氏は、「マイクロソフトでは、データセンターのデザインから世界規模でのキャパシティプランニング、各種ツールや自動化の仕組みの提供、セキュリティとコンプライアンス、グローバルネットワークまで、総合的に提供している。Microsoft Azureについては、2014年2月より東日本と西日本の2拠点に日本のデータセンターを展開。日本国内だけで、データの冗長構成が可能になっている」と語る。
なぜ世界各国にデータセンターを展開するのか。その答えは、パフォーマンスの改善である。全世界にデータセンターを分散することで、パフォーマンスの最適化を図っている。一方、可用性改善に向けたアプローチとしては、人・プロセス・技術の観点から取り組みを進めている。プロセスの改善については、人的ミスやハードウェア障害を前提とした体制を構築し、万が一に備えている。さらには、障害が発生しても利用者に影響を与えないシステムをめざし、「レジリエント(自動復旧)ネットワーク」と呼ばれる革新的なシステムの実現に取り組んでいる。
越川氏は、「マイクロソフトは、日本のクラウドに引き続き投資をしていくことをコミットしている。投資を継続しながら、情報基盤を支える企業としての使命と責任を持って、信頼されるクラウドサービスを展開するための体制を確立していく」と話し講演を終えた。
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提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エグゼクティブ編集部/掲載内容有効期限:2014年12月3日