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カカクコムの徹底した「ユーザー本位」、その鍵は情熱ある“オタク社員”にあったポーター賞企業に学ぶ、ライバルに差をつける競争戦略(4/4 ページ)

価格比較サイトの先駆けとして90年代末に登場した「価格.com」は、いまや月間8億7000万ページビューという巨大サービスに成長した。その成長の裏側には一体何があったのだろうか。カカクコム・田中社長が語った。

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創業者リスクを排しサスティナビリティを確保

菅野 新サービスの立ち上げとなれば、担当社員に求められる情熱も並大抵ではなさそうです。人材確保への取り組みを教えてください。

田中 株式を公開し、会社もある程度の規模になったことで、普通の新卒採用では以前のような人材の確保が困難になっています。応募者を見ると、優秀でバランスの取れた人材がほとんどで、そのこと自体は会社が成長した証として喜ぶべきことなのでしょうが、オタクではなく、人材の均一化には危機感を持たざるを得ません。

 そこで、人材の多様性をできる限り確保するために、採用の最終判断はすべて事業部の役員に一任しています。わたしが面接を行うと、主観による偏りが必ず生じるはずですから。

菅野 すべての人材の面接を社長が直接行い、社長の色に染める方もいますが、それとは真逆ですね。

田中 当社はその点で力が抜けています。社員が働きやすい環境の整備が社長の役割と私自身もとらえており、現場の判断には口を一切出しません。実際問題として、経営者が一人で企業をけん引することはリスクも大きい。私は以前、銀行に勤めていたのですが、貸付マニュアルにも冒頭に「創業者リスク」が挙げられています。後継者不在のリスクは決して低くないのです。当社の経営モデルはサスティナビリティを確保するためとも言えますね。

社員の意欲を削がないための“仕掛け”

菅野 カカクコムは社員の退職率が非常に低いです。

田中 熱い人材を当社につなぎとめておくことも経営者の大切な仕事です。そのために、毎月、退職者の経歴や退職理由を必ず確認しています。職場環境の改善にも積極的に取り組んでおり、平均残業時間は月あたり33時間ほどに抑えられています。その甲斐もあって、離職率は7〜8%と低い水準を維持できています。

菅野 今後の事業拡張にあたり新たなシステム投資は不可欠です。その点に対する御社のスタンスを教えてください。

田中 ネット業界のシステム投資の考え方は他業界と一線を画します。食べログのサービス開始にあたり、価格.com事業で償却が終わったサーバを流用することで、初期投資がほぼゼロだったことからも、その点は理解いただけるはずです。新たな事業提案があったときに、他社に新た市場を奪われることを考えれば、やるリスクよりもやらないリスクの方が大きいです。この業界ではリスクを大きく取ってリターンを求めなければ競争に勝ち抜けないのです。投資に対する意識は銀行員時代と180度変わりましたね。

菅野 失敗したときの撤退コストはリスクになりませんか。

田中 当社のシステムは1つひとつが小さく、リスクは極めて限定的です。一番の問題となるのは社員のモチベーションです。事業の撤退を決断するのは私以外にあり得ないでしょう。しかし、事業を行うのは現場の社員です。彼らに責任を押し付けては、意欲の低下が免れません。

 そこで、社員の評価基準にも一工夫を加えています。当社では新規事業準備室が事業の立ち上げを主に担っていますが、他部署が利益など数値で評価されるのに対し、新規事業準備室では新しいことをどれだけ実行したのかが評価基準になっています。

 失敗をおそれずチャレンジできる土壌を整える。当社が成長を続けるためにも、その点には今後も力を入れていきます。

菅野 ありがとうございました。

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