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AECがもたらすASEANヘルスケア産業の未来飛躍(2/6 ページ)

AECは、EUがもたらしたような単一経済圏の誕生を意味するのか、それとも同床異夢の加入国の意向が折り合わず、これまでと変わらない事業環境が続くのか。ヘルスケア産業にもたらすであろう変化と、そこで生まれる事業機会とは?

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Roland Berger

1―2.国際競争力を持つ民間病院グループ、国際競争力に劣る製薬メーカー

 国家レベルでは、医療の地域格差解消を目指して財源を分配しているにも関わらず、こうした都市型医療モデルが生まれたのは、民間投資、すなわち民間病院が主要都市に集中して投資をしたからだ。図Cは、ASEANを代表する民間病院グループ、および製薬メーカーの時価総額を世界の同業トップ3と比較したものである。


図C:民間病院グループ、製薬メーカーの時価総額比較[USD bn]2015年4月6日時点

 競争力の源泉である研究開発力に劣るASEANの製薬メーカーは、トップのKalbe FarmaやUnited Laboratories といえども、世界トップのノバルティスやロシュとは時価総額で30倍以上の開きがある。一方で、ASEAN最大の民間病院グループであるマレーシアのIHH Healthcare は、米国最大の病院グループであるHCA Holdingsに次いで、既に時価総額で世界第二位に位置する巨大グループだ。IHHに次ぐ規模を持つBGH(BangkokDusit Medical) も、時価総額約90 億ドルで世界有数の地位にある。 IHHやBGHに代表されるASEANの民間病院グループは、国際競争力の観点でも既に世界トップクラスに位置している。

 この第2の特徴は、AECが医療産業にもたらすインパクトを考える上で極めて重要な視点である。というのも、EU統合とその後の医療産業の規制緩和は、ノバルティスやロシュ、サノフィなど国際競争力を持つ域内製薬メーカーの(特に米系製薬メーカーに対する) 競争力強化を主眼に進められてきた。医薬品申請コストの削減という製薬メーカー側のメリットと、各国規制当局が個別に行っていた承認プロセスコストの削減という行政側のメリットが一致した結果、EU各国の医薬品承認プロセスの一本化に向けた動きが進んだ、というのがEUにおける規制緩和の背景だ。

 しかし、ASEANではこうした力学は働かないだろう。域内の製薬メーカーは、その多くが国内市場を主戦場にしており、グローバルでの競争力どころか、ASEAN域内での競争力もこれからの段階だ。今の状況で規制緩和をすれば、域外から参入してくるグローバルプレイヤーに市場を奪われてしまうことは火を見るより明らかである。また、ASEAN各国の規制当局も、FDAやEMAでの承認をベンチマークにすることで医薬品承認プロセスを簡略化しており、EU各国の規制当局ほど承認プロセスコスト削減にメリットを感じないだろう。域内企業の競争力強化に繋がらない規制緩和にAECが積極的に取り組むインセンティブは乏しく、AEC統合において、「製薬メーカー主導」で規制緩和が進む可能性は極めて低い。

 その一方で、ASEAN域内の民間病院グループは極めて高い国際競争力を持ち、IHHにせよBGHにせよ、既に域内複数国にまたがって事業を展開している。AEC統合による規制緩和や基準の統一は、民間病院グループの域内、および国際競争力の強化に大きく貢献するだろう。したがって、AEC統合では、民間病院グループが統合に向けた主役となって、医師免許の相互認証など、自らの競争力強化に直結する分野から統合を進めるよう働きかけていく、というのがAEC統合後の医療環境を考える上で極めて重要な視点になるのではないだろうか。

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