ジョブズがいなくても、新しい価値は創造できる:日本式イノベーションの起こし方(1/2 ページ)
どうすれば組織の中からイノベーションを起こすことができるのか? 実は日本の組織こそが変化をつくり、イノベーションを起こすことに適しているという。
アップル復活のキーワード、「Think Different」
どうすれば組織の中からイノベーションを起こすことができるのか? 最終回は今世紀を代表するイノベーターであるスティーブ・ジョブズ氏及びアップルでのエピソードを絡めながら振り返ってみます。
信じ難いことですが、アップルにはあと3カ月もすると資金がショートして潰れてしまうという状態が、1997年にありました。幹部が本社のホールに集められ、ジョブズ氏が行った有名なスピーチがあります。アップルの企業広告のお披露目の場で流されたテレビCFのキャッチフレーズが、「Think Different」です。披露された60秒のフルバージョンの詩を全文紹介しましょう。
クレージーな人たちがいる。反逆者、厄介者と呼ばれる人たち。四角い穴に丸い杭を打ち込むように、物事をまるで違う目で見る人たち。彼らは規則を嫌う。彼らは現状を肯定しない。彼らの言葉に心を打たれる人がいる。反対する人も、称賛する人も、けなす人もいる。しかし、彼らを無視することは誰にもできない。なぜなら、彼らは物事を変えたからだ。彼らは人間を前進させた。彼らはクレージーと言われるが、私たちは天才だと思う。自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが、本当に世界を変えているのだから。
この広告は、アップル復活ののろしとなりました。これは、世間に対する宣言であると同時に、社内に向けたメッセージでもあったからです。アップルとは何か、自分たちはどういう人間なのかが分からなくなっていた社員が、この広告を見て聞いたときに奮起した様子が目に浮かびます。
同じコトを考えるんじゃない。違うコトなんだ。少しだけThink Different。大きくThink Different。アップルは型にはまらない考え方をする人のもの、コンピュータを使って世界を変えたいと思う人のものなんだ。
これは後にジョブズ氏自身が述懐している言葉です。普通でないことを考える。違うように考える。違うことを考える。独創的に考える。ただ単に考えるだけではダメなのです。ユニークさが求められます。そして、アップルが違うように考える集団であって欲しいと、心から願っていたのです。
アップル自体が最大のイノベーション
ある逸話を紹介します。1997年の危機を乗り越えて、再びアップルがイノベーションを起こし、成長軌道に乗って暫くして、インタンビューに答えています。「ジョブズ氏にとって最大のイノベーションはなんだと思いますか?」少し間をおいてジョブズ氏はこう言ったそうです。
アップルという会社自体が最大のイノベーションです
「Think Different」。違うことを考え続ける集団をつくる。これが経営者としての腹決めです。ジョブズ氏は、会社ごと「慣行の外に出る」ことを決めて行動したのです。企業がイノベーションを起こすためには、マーケティングに偏重していてはダメです。アップル社の「Think Different」は、経営者の腹決めを社員に浸透させるシンプルで強力なメッセージです。こうしてジョブズ氏は「偉大な製品をつくろうと意気込む人たちが集まる、永続するイノベーション企業」を創り続けたのです。
アップルのような組織や企業をつくれ
皆さんの会社にジョブズ級の経営者はいますか? ジョブズ氏のようなイノベーターはいるでしょうか? ジョブズ氏は世界にたったひとりであり、残念ながらもうこの世にはいません。しかし、アップルのような組織や企業をつくることはできるはずです。ジョブズ氏並みとまでいかなくても、隠れている優れたイノベーターたちをマネージャが鼓舞し、組織が支援し続け、経営者は本気で慣行の外に出る。そうすれば組織の中からイノベーションを起こすことができるのです。
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