2016年、「異文化理解力」で違いの分かる日本人になる――他者理解は自己理解から:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
「あ・うんの呼吸」は通じない。自分たちの意思決定の背景にある文脈を、多様なステークホルダーに対し謙虚かつ根気よく明示していく必要がある。
8つの物差しの中でも、グローバルで仕事をする日本のビジネスパーソンにとっての最大のチャレンジは、ハイコンテクストなコミュニケーションスタイルではないでしょうか。「あ・うんの呼吸」を尊ぶ嗜好が日本の経営者の間に根強い一方で、この本を読み返しながらあらためて確信したことは、ローコンテクストの文化で育った人に対して、見えないもの、聞こえないものを「見ろ、聞け」と要求することは非常に酷な話であり、多様性を生かす上で最も大切となるインクルージョンとは真逆の、排他的行為にあたるということです。
急速に多様性が増しているこの世の中で、相手に自分のコンテクスト(文脈)のみを押し付けることは、非現実的かつ非人道的ですらあり、その結果、他の文化の人々から心理的距離を置かれ、恨みを買ってしまう危険すらあります。多くの日本企業にとっては、自分たちの意思決定の背景にある文脈を、多様なステークホルダーに対し謙虚かつ根気よく明示していく努力を怠らないことが、組織としての異文化力を醸成する上での大きな第一歩ではないでしょうか。
また、上からのプレッシャーが厳然と存在する中、意思決定はあえてみなの合議、ボトムアップというスタイルを好む日本の企業文化は、外国人社員のみならず、若い日本人社員たちにとっても矛盾と戸惑いに満ちたものであることも忘れてはならないでしょう。多くの会議が議論の場としては形骸化し、事前の根回しに疲弊する人々を生んでしまう背景には、こういった根深い文化的な矛盾が存在します。グローバル・ビジネスの命運が、自由闊達(かったつ)な議論から生まれる革新的イノベーションにかかっていることを考えれば、日本企業が抱えるこの文化的矛盾の負のインパクトを侮ることはできません。
文化というものの本質、そこから生まれるチャレンジをシンプルに理解するために、ここで本書に引用されている、ある有名な話を紹介します。
二匹の若い金魚が、向こうから泳いできた年寄りの金魚とすれ違う。年寄りの金魚は彼らに挨拶して言う。「おはよう、坊やたち、水の調子はどうだ?」―― すると若い金魚の片方がもう片方に聞く。「おい、水ってなんだ?」
著者も指摘するように、私たちは自分の文化の中にいるとき、その文化を見ることはしばしば難しく、不可能な時すらあります。しかし、他者から見れば、その文化と文脈は、異質のものとして歴然と存在するものなのです。
「カルチャー・マップ」が私たちに教えてくれること、それは、「自己の物差しで他者を見る」ことではなく、「他者の物差しで自己を見る」ことの大切さではないかと、私は考えています。グローバル化が今後もますます加速する中、多文化の環境で私たちが力を発揮する上で肝要となるのが、「客観的な自己認識」です。他者を相対的に理解するためには、自分自身に対する冷徹な理解が欠かせません。そういう意味では、「異文化理解力」は、深い「自己理解力」を起点としていると言っても過言ではないでしょう。
2016年、ダイナミックなグローバル化、多様化に身を置くにあたり、より多くのビジネスパーソンが、この『異文化理解力』からの学びを自身の味方につけて、ますますのご活躍の一助としていただけることを切に願っています。
著者プロフィール:田岡 恵(Megumi Taoka)
グロービス経営大学院経営研究科教授、同大学院英語MBAプログラム研究科長室ディレクター。慶應義塾大学文学部卒業、筑波大学大学院国際経営修士(MBA in International Business)。海外での企業会計プロフェッショナル職を経て、現職。グロービス経営大学院では、会計および異文化マネジメント関連の講義を担当。共著に『グロービスMBAマネジメント・ブック?』。
◆グロービス経営大学院
社会に創造と変革をもたらすビジネスリーダーを育成するとともに、グロービスの各活動を通じて蓄積した知見に基づいた、実践的な経営ノウハウの研究・開発・発信を行なっている。
◇グロービス経営大学院
・日本語(東京、大阪、名古屋、仙台、福岡、オンライン)
・英語(東京)
◇グロービス・マネジメント・スクール
◇グロービス・コーポレート・エデュケーション
(法人向け人材育成サービス/日本・上海・シンガポール)
◇グロービス・キャピタル・パートナーズ(ベンチャーキャピタル事業)
◇グロービス出版(出版/電子出版事業)
◇「GLOBI知見録」(ビジネスを面白くするナレッジライブラリ)
その他の事業:
◇一般社団法人G1サミット(カンファレンス運営)
◇一般財団法人KIBOW(震災復興支援活動)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 一流と二流の違いは、ほんのちょっとした差
- 新・上司力は、女性活躍だけではない
- 近づけ過ぎず、遠ざけ過ぎない距離の取り方
- 起業するならもっと数字で考えなきゃ!――黒字起業家になる52の言葉
- 年収の伸びしろを広げたいなら「オンとオフ」を180度変えよう
- その会議、1回100万円です!
- 決断の心理学――何かを変えるか、現状維持か
- 「間違いだらけのビジネス戦略」が読み解く2015年のビジネス・シーン
- 「NOと言われない営業」が世に存在していいのか?
- 「上司の9割は部下の成長に無関心」時代に人を育てる3つの鍵
- ほめるな、叱るな、教えるな
- 売上アップと、優秀なリーダー育成を同時に達成する「全員営業」マネジメント
- 男の年収は「見た目」で決まる――コンディションを高める2ステップ
- 40歳を超えて不安な健康 でも、時間がない、酒も飲みたい人の抜け道
- なぜ、うちの会社はうまくいかないのか?――組織とあなたを支配する8つの基準
- チームからイノベーションを生むビジネスマネージャーになるため、デザイン思考から学べること
- 21世紀のビジネスに大事なのは「モノ」より「共感」――10年後も生き残るための4つの考え方
- ネクタイを毎月3本買う人はなぜスゴイ仕事ができるのか?
- もしもあなたが新規事業の担当になってしまったら
- 「マネジメント・スタイル」が最強のチームをつくる