ASEAN経済共同体(AEC)の発足と存在感を増すASEANコングロマリット企業:視点(2/3 ページ)
1番目の目標は「単一の市場 ・ 生産拠点」 はヒト・モノ・カネがASEAN域内で自由に流通し、広域で統合された経済圏を創出することを目指している。
2、AECによるASEAN現地企業の躍進
AECへの取組みはすすんでいるものの、行政の未熟さやインフラの未整備等、課題は未だ山積している。 また、地理的事情や産業の進展度により、各国・産業間で AECに対するモチベーションに差があることも、ボトルネックの解消が難しい要因となっている。
但し、ASEANの一部企業は着実に AECを好機と捉え、越境や事業の域内最適化を進めており、それが実質的にAECを後押しする構図となっている。例えば、ASEAN域内での投資活動は近年活発化しており、ASEAN国同士での直接投資額は、2009年には 100億ドルに達さなかったものが 5年後の2014年には200億ドルを超える規模になった。(図B参照)
ASEAN国からの投資先として、金融・貿易の中心国であるシンガポールへの資金流入はもともと大きかったが、豊富な資源があり消費市場も成長しているインドネシアやベトナム、そして今後の発展が期待されるミャンマーへの先行投資が目立ってきている。
また、投資する側として、今までは投資を受入れる側であったマレーシアやタイ、インドネシア、フィリピンの存在感が高まってきているのも着目すべきポイントである。
以上のような、ASEAN域内における投資資金の活性化の背景には、AECによる先行き変化を読み、いち早く投資を振り向ける現地コングロマリット企業の動きがある。ASEAN各国の大手企業が、他ASEAN諸国への投資やM&Aを活発化してきているのである。
AECを背景に活発化している ASEAN現地企業の投資パターンは、下図 B(1)から(3)のとおり、大きく3タイプある。(図B参照)
(1)について、タイのSiam Cement Group(SCG)は、ASEAN Sustainable Business Leaderというビジョンを掲げ、ASEAN広域で事業拡大を進めている。もともとはセメント事業を主としているが、数十社にのぼる M&Aを通じて海外事業や産業の多角化を進め、今や全体の 6割がセメント事業以外、また、全体の 4割がタイ国外からの売上である。 SCGの躍進の背景には、グローバル展開に備えた先進的な社内体制の構築がある。 彼らの戦略構築、意思決定プロセスやグローバル人材育成は、もはやグローバルの多国籍企業並みである
(2)について、マレーシアの携帯電話・通信事業者Axiata は、近年積極的なM&Aにより急速に拡大。2012年にカンボジア、2013年にインドネシア、2015年にはミャンマー ・ ネパールと、次々に同業者の株式を買収している。彼らは各国の発展段階に応じて戦略を変えており、例えば、ミャンマーであればまずインフラを整備し、カンボジアであればコア・サービス(通話・ショートメッセージ等)を安価で提供して携帯電話市場の成長をサポートする。 一方、インドネシアやマレーシアは、既に携帯電話は普及しているため、オペレーションの効率化やマーケティングの精緻化に重きを置く。 このように各国別のアプローチをとりつつも、調達や ITインフラ、トレジャリー業務などの共通部分はマレーシアに一本化し、グローバルでのコストダウンを図っている。
また、インドネシアの食品会社でビスケットやコーヒーを展開している Mayoraは、ASEANを中心にグローバルで自社製品を販売。他国展開においては、意思決定プロセスやマーケット調査、ローカライズの手法等をマニュアル化し、それを各国の質の高いローカル人材に執行させることで、効率的で勝率が高いグローバル展開に成功している。 マーケット調査においては、現地研究機関と提携したり、ショッピングセンターでサンプリングプロモーションを行う等、精緻で定量的なアプローチを行っている。
また、広域展開を目指すも規制等の問題から進みにくい金融業界では、AECをチャンスと捉えた業界プレーヤーが政府に積極的な働きかけを行っている。例えば、インドネシアに展開したいフィリピンの金融機関連合は、インドネシアの銀行への外資出資規制を変更するため、政府にロビー活動を行っている。 また、マレーシアの CIMB銀行は政権の近親者が会長であり、自社の ASEAN広域展開を念頭に、経営陣が AECの推進を積極的に政府に働きかけている。
ただし、このような業界を挙げた AECの推進への取組みは業界によって温度差があり、例えば、製薬業界は外資グローバルプレーヤーが強く、AECによる統合で現地企業が享受できるメリットが小さいことから、業界による働きかけは見られない。
(3)について、インドネシアのコングロマリットである Salim Groupは自社の製糖事業において、AECによる関税引き下げを踏まえてASEAN域内で生産拠点を再編。 従来はインドネシアでの製糖を主としていたが、同国での生産は小規模で効率が悪く、生産コストが高いため、AECによって近隣諸国から安価な砂糖が輸入されれば、競争力を失ってしまう恐れがあった。 Salim Groupは、より高効率な生産ができるフィリピンの製糖メーカーの株式を買収して他国の生産拠点を確保するとともに、インドネシア国内の小規模製糖工場を統合し、AECに備えている。
また、ASEANで広くファストフードチェーンを展開するフィリピンの Jollibeeは、AECを踏まえて ASEAN各国からの最適な原料調達網を築き、コスト削減に成功。 例えばスパイスはインドネシアやマレーシア、コーヒーはベトナムからなど、原産地ベースの調達網に再編した。 同社 CEOは現地取材に対し、今後の AECの進展による一層の調達網最適化に期待しているとのべている。
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