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ASEAN経済共同体(AEC)の発足と存在感を増すASEANコングロマリット企業視点(3/3 ページ)

1番目の目標は「単一の市場 ・ 生産拠点」 はヒト・モノ・カネがASEAN域内で自由に流通し、広域で統合された経済圏を創出することを目指している。

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Roland Berger
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3、ASEAN現地企業が抱える課題

 ASEANの経済発展に期待し、ASEANには域外のプレーヤーが殺到している。現地企業も外部の脅威に対抗するため、また、自ら事業機会を求めて、ASEANの他国へ展開を進め、競争は激化している。

 ASEAN企業は元来の強みであるファミリービジネスをベースとしたトップダウンの迅速な決断力、現地マーケットへの理解やネットワークを活用する一方、先進国から学びマネジメント手法を洗練させることでグローバル企業と伍するための力をつけてきた。但し、競争が激化する中、ASEAN企業は以下のような課題も抱えている。(図C参照)

 例えば、フィリピンのゴコンウェイ財閥は、ASEANで一番の菓子メーカーになることを目指しているが、そのためにはブランド力や開発・技術力が欠けると認識していた。2014年、同社は日本の食品メーカー Calbee社と提携。自社の販売ネットワークや現地市場への理解と、Calbee社の開発力や技術力、ブランド力を合わせてASEAN全域への事業拡大を狙っている。

 また、タイのSCGは、技術力の向上、製品の高付加価値化が自社の課題であるとの認識から、R&D機能を強化しており、社内の研究開発費はここ5年で3倍以上を投下している。

 一方、ドイツの Siemens社は、そのような現地企業が抱える課題意識にうまくアプローチしており、例えば、フィリピンやベトナムの大手飲料メーカーの製造工場にIoT技術を導入し、工場制御の自動化による品質向上、合理化や、予知メンテナンスによる生産性の向上に寄与している。

4、日本企業への示唆

 AECはあくまでも ASEAN企業の成長のための取組みであるが、AECによる ASEAN経済の発展は日本企業にとっても事業拡大の好機である。

 日本企業の ASEAN事業拡大にあたっては、急速に力をつけてきている ASEAN企業との付き合い方が重要になってくる。 彼らとの付き合い方は、下図の通り3つの観点で捉えていく必要がある。(図D参照)

 「ベンチマークとしての観点」について、AECはあくまでもASEAN企業の成長のための制度であり、コングロマリットは今後もそれを積極的に活用していくことが予想される。 また、AECの今後の方向性を、政府へのロビー活動等で左右するのも、コングロマリットである。つまり、AECを踏まえたASEANの将来動向は、ASEANのコングロマリットが左右するわけであり、ビジネスも、コングロマリットが最も先手を打ちやすい。

 日本企業としては、ASEANのコングロマリットをモニタリングしたり、ネットワークを構築することで、最新の事業機会をつかみ、出遅れないようにしたい。

 「ライバルとしての観点」について、ASEANのコングロマリットや大企業は、既に先進国並みの経営スタイルを学んできている。また、現地企業としての意思決定スピードや豊富な情報網は、日本企業にとって脅威である。 所謂 「新興国の企業」 というイメージは、もはや捨てなくてはならない。 また、更にそのような ASEAN企業が、自社に欠ける技術力やブランド力を持った欧米等の域外企業と組めば、脅威は増大する。

 日本企業としては、彼らをしっかりモニタリング・分析しながら、競合としての対抗策を精緻に構築して臨むべきである。

 「協力パートナーとしての観点」について、ASEAN企業は成長してきているが、ASEAN企業だからというだけで域内他国で成功するとは限らない。 ブランド力や技術力、ビジネスモデルの観点で課題が存在するし、競争激化による投資負担も大きい。

 共同投資の観点もあるが、更に日本企業の強みを活用してASEAN企業の課題にアプローチできれば、相互WinWinの関係につながり、ともに ASEANの成長市場を取込むことができるだろう。そのためには、彼らの課題を分析し、自社として彼らのために何が提供できるのか、長期的な成長ストーリーを描き、実現に移していくことが重要である。

 日本企業が、ASEANの現地企業をモニタリングしながら最新の事業動向をつかみ、彼らの課題にアプローチできれば、確実に今後の成長市場におけるチャンスをモノにしていけると考える。一方、ASEAN企業はライバルとしても脅威であり、日本以外の欧米・中国や韓国企業と組んでいく可能性もある。ASEAN企業との付き合い方こそが、日本企業のASEANでの成否を左右する重要な鍵なのである。

 ASEANは日本企業にとってこれからも負けられない重要な市場である。 そのASEAN市場は AECの進展や各国の経済発展によって間違いなく成長していくが、不確実性は依然として大きく、ASEAN経済が抱える課題も多い。 またAECが進むほど、広域化した事業の舵取りは、より複雑さを増してくる。

 これまで述べてきたようにASEAN企業は着実に力をつけ、その存在感は高まってきている。また、欧米企業はICTなどの先端技術を武器に、中国や韓国の企業は価格を武器に、ASEANでの事業拡大を加速している。

 現在、不確実性が増し、競争が激化していくASEAN市場において、日本企業が引き続き存在感を発揮できるかという、大きな岐路に来ているのではないだろうか。

 存在感を増すASEAN企業との付き合い方を、今一度見直すとともに、不確実性をマネージし、日本企業としてどうASEAN企業や産業の発展・高付加価値化に貢献していけるかを、真剣に再検討すべき時期に来ていると、我々は考えている。

 ローランド・ベルガーはASEANコングロマリットの研究やプロジェクトを数多く手がけており、ASEANコングロマリットとのネットワークを広範囲に有している。日本企業とASEAN企業とのWinWinの関係づくり、そして、日本企業の ASEANにおける事業拡大に貢献できれば幸いである。

著者プロフィール

山邉圭介(Keisuke Yamabe)

ローランド・ベルガー シニアパートナー

一橋大学商学部卒業後、国内系コンサルティング・ファームを経て、ローランド・ベルガーに参画。

自動車、部品、建設・住宅、航空、消費財、など幅広い業界において、営業・マーケティング戦略、ブランド戦略、グローバル戦略、事業再生戦略の立案・実行支援に豊富な経験を持つ。

近年は、新興国戦略の分野で数多くのプロジェクトを手がける。

アジア・ジャパン・デスク統括


著者プロフィール

石毛陽子(Yoko Ishige)

ローランド・ベルガー シニアコンサルタント

東京大学文学部卒業後、日系証券会社に入社。日本・シンガポールにて経営企画・投資銀行業務に従事した後、ローランド・ベルガーに参画。

金融、商社、メーカー等幅広いクライアントを対象に、成長戦略、市場参入戦略、技術戦略、営業・マーケティング戦略のプロジェクト経験を多数有する。2015年より、シンガポール・ジャパン・デスク在籍


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