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認知症を予防するには知っておきたい医療のこと(1/2 ページ)

増え続ける認知症のコントロールは現代社会においては喫緊の課題であり、治療薬も開発されているが、一旦発症すると根治が難しい。確実とはいわないが期待できる予防法はある。

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 65歳以上の認知症発現率は推計15%、460万人以上に達することが、厚生労働省研究班により最近公表されました。認知症の発症予備軍として注目される軽度認知症(MCI)の高齢者も約400万人と推計され、65歳以上の4人に1人が認知症ないしは認知症予備軍となる計算になります。

 この調査は2009〜2012年度に全国8市町で実施した計5386人分のデータを解析して認知症の有病率を調べ、2012年度時点での状態を推計したものです。前回2010年に厚労省が予測した認知症有病率は、2015年度には65歳以上の8.4%、262万人ということでしたので、その予想を大きく上回る数値となっています。

 そして、今回の推計値は団塊の世代が含まれていない集団を対象としており、2014年には団塊世代が65歳以上の高齢者になっているので、認知症人口は推計値よりはるかに多いと考えられます。

 高齢化社会において認知症が増えていくと、ただでさえ減少している労働人口の枯渇状態に決定的なダメージを与えることにつながりかねません。認知症を発症すると本人はもちろん労働できませんが、さらにその介護者を複数必要とするため二重三重に労働力を消費してしまいます。健常であれば当人とその介護者たちが社会に対して創出できた労働力が、当人1人の介護のみに消費されてしまうのです。

 以上のことから、認知症のコントロールは現代社会においては喫緊の課題であり、治療薬も次々と開発されておりますが、一旦発症すると治療を開始しても根治できないのが現状です。そこで、どうにか認知症の発症を予防できないかということになるわけですが、残念ながら確実な予防法は科学的には完全に解明されていません。しかし、認知症の予防に関する研究は国際的に多数報告されており、期待できる予防法も複数同定されてきています。

認知症の原因

 認知症の原因を突き詰めることができれば、その対策をすることにより予防できることになります。認知症の原因の半数といわれるアルツハイマー型認知症は、アミロイドβという老廃物が脳に蓄積することがその原因だと分かっています。そして血糖を低下させるときに必要なインスリンという物質が慢性的に血液中に増加し続けるとアミロイドβが溜まりやすいということも知られています。

 すなわち、慢性的にインスリン分泌が多い、2型糖尿病(一般的な生活習慣による糖尿病)、糖尿病予備軍、肥満、そして運動不足の人は、アミロイドβが蓄積しやすく認知症が発症しやすいということになります。また、認知症の原因の約20%を占める脳血管性認知症は、動脈硬化や血栓症などの血管病がその背景にあります。糖尿病、肥満、運動不足は血管病を発症する代表的な危険因子でもありますから、これらの管理をすることが認知症予防の最大のポイントと言えるでしょう。

認知症の危険因子・防御因子

 日本人の標準的なサンプル集団として注目される九州の久山町スタディは、心血管病や認知症の発症リスク予測に対して信頼できる情報を提供するものと考えられています。40歳以上の全住民を対象とし、前向きの追跡研究で、受診率が80%、剖検率が75%、追跡率が99%という他の研究に類のない特徴を持つことが、この研究が医学的情報として極めて高い価値が置かれている理由です。

 50年以上もの長期にわたるこの前向き調査で、日本人の認知症発症リスクとして高血圧、喫煙、糖尿病の3つは明らかであることが提示されました。具体的には、特に中年期(40〜65歳)の高血圧が血管性認知症の危険因子であること、中年期から老年期にかけて持続して喫煙すると認知症は促される一方で、中年期で禁煙するとリスクは劇的に下がること、糖尿病はアルツハイマー病増加の要因であること、が示されています。

 「アルツハイマー病は脳の糖尿病だ」、という見解が、脳神経外科専門医の間で最近示されているようですが、久山町研究でもそれが証明されているわけです。 

 認知症学会のガイドラインでは、認知症にかかわる因子が危険因子と防御因子の2つに分けられています。危険因子には、アポリポタンパクE4を有している者、高血圧、糖尿病、高脂血症、運動不足、喫煙が挙げられ、防御因子としては、定期的な運動、地中海型食事、余暇活動、社会的参加、活発な精神活動、認知訓練、適度な飲酒が挙げられています。

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