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認知症を予防するには知っておきたい医療のこと(2/2 ページ)

増え続ける認知症のコントロールは現代社会においては喫緊の課題であり、治療薬も開発されているが、一旦発症すると根治が難しい。確実とはいわないが期待できる予防法はある。

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認知症の予防

 過去数回にわたって、がんや血管病など命に関わる重篤な疾患の予防法についても触れました。それらの投稿を読まれた方は、上述の認知症の予防に関する内容が、がんや血管病の予防とほとんど同じではないかと感じられたはずです。

 がんや血管病の発症を予防するポイントとして挙げられたものは、節度ある飲酒、禁煙、加工肉を控える、運動、減量、野菜・果物を食べる、減塩、コーヒー摂取などでした。上述の認知症の予防のポイントとかなり重複しています。

 また、冒頭に触れた軽度認知症(MCI)という認知症の前駆状態に陥っていないかを、定期的にチェックすることも極めて肝要と言えます。認知症は忽然と発症するものではなく、MCIという正常と認知症の境界領域を経て徐々に症状が完成されるようです。MCIの時期に予防策を積極的に講じれば認知症の発症を抑止できる可能性があります。

 MCIは、認知機能の一部に問題が生じているが日常生活には支障がない状態のことで、

1、認知機能の低下が本人や周囲から申告される

2、記憶など1つ以上の認知領域での障害が客観的に示される

3、日常生活動作は正常で自立している

4、認知症とはいえない、などが診断基準になります。

 自分がMCIになっていないか不安に感じられる方は、もの忘れ外来など医療機関で確認してもらうのが良いでしょう。

具体的なアクション

 がん、血管病、認知症の予防法は、その多くが重なるわけですから、これらの予防策をしっかり励行すれば、現代人が最も恐れるこれらすべての疾患の発症を抑えられるとも言えます。そして、高齢化社会で最近とみに問題視される高齢者の虚弱状態(フレイル)の対策にもなり、まさに健康長寿を手に入れることにつながります。

 科学的に絶対とは言えないまでも、さまざまな研究報告から期待できる予防のためのアクションを最後に整理します。

40〜65歳は高血圧や高コレステロールの治療を積極的に行う

 40〜65歳の社会的活動力がある時期に血圧や血中コレステロールの管理を怠ると、それが「負の遺産」となって将来認知症の発症が促されるようです。血圧の治療薬は飲み始めたら一生飲まなければいけないので、できるだけ服用開始時期を遅らせようと考える方が時々いますが、実際に健康に不安を感じる年齢になって、高血圧の程度が進んでしまってから治療を開始しても、時すでに遅しです。逆に、40−65歳でしっかり健康管理ができれば、70歳以降は血圧や血中コレステロールをそこまで厳格に管理しなくても問題ないという見方もあります。

運動は極めて重要

 過度な運動はむしろ障害の原因にもなりますので避けるべきですが、適度な運動は積極的に意識的に行うべきです。既にアルツハイマー病が発生したとしても運動によりその進行が抑えられたという報告もあります。

 適度な運動とは、週3〜5回、1回20〜60分程度の、多少負担は感じるけれども終わったら充実感、開放感があるレベルのものが良いようです。そして、楽しくできるもの、計算や創造などの頭も同時につかうものであれば、なお良いと言われています。

 音楽に合わせてステップを踏みながら、100から7ずつ引く計算をし続けたり、全国の都道府県名を思い起こしたり、身体を動かすことと頭を使うことを並行して行うのが理想的です。深呼吸やウオーキングは手軽で単純な運動ですが、習慣にすると健康改善の効果が極めて大きいと言われています。

社会参加、余暇活動、精神活動は効果あり

 できるだけ多くの人と会話すること、家に閉じこもらずに社会的活動に積極的に参加すること、趣味やレジャーを満喫すること、瞑想を心掛けたり神社仏閣などにお参りをして気持ちを鎮めたりすること、などは多くの観察研究で認知症の予防効果があることが示されています。

食習慣を見直すことも大切

 科学的エビデンスがある食事因子としては、

1、野菜や果物を積極的に摂る(ただし果物の摂り過ぎは高血糖になるので注意)

2、タンパク源としては魚を積極的に摂取する(肉を食べてはいけないということではない 魚の摂取不足が問題)

3、地中海食

4、適度な飲酒(ワイン1日1−2杯 個人差はある)などが挙げられます。

 言うまでもなく、煙草は百害あって一利なし、喫煙の弊害を示すエビデンスが出そろってきた昨今、昔ヘビースモーカーだった医師のほとんどが禁煙しています。糖分・塩分を控えることも、もちろん重要です。 

脳の活性化に良いこと

 良い香りをかぐことは脳を休めるだけではなく記憶をつかさどる海馬と呼ばれる脳の領域のコンディションも整えてくれるようです。利き腕ではない腕で歯を磨いたり、髪をといだり、文字を書いたりすることも、脳の活性化につながります。

 そして、脳の広範囲が刺激され脳の調和にもつながる創造的な作業は脳の健康に非常に役立つと言われています。料理、作文、工作、作曲、絵画など、手指をつかって何かを創り出す行為を日常的に行うことができれば理想的です。

 認知症の診療に当たる医師達からは断定的なことは言えないという声も聞かれますが、常に活動的な生活をする、多くの人と日々触れ合う、適度な運動をする、計算や創造などの脳を使う知的作業にこころがける、食事内容に気を付ける、などは認知症の予防に寄与するものとして共通に認識されているようです。

 次回の連載は、最近のがん治療に関するトピックに触れる予定です。

著者プロフィール:北青山Dクリニック 院長 阿保 義久

1965年、青森県生まれ。東京大学医学部卒業後、東京大学医学部付属病院第一外科勤務。その後、虎の門病院で麻酔科として200例以上のメジャー手術の麻酔を担当。94年より三楽病院で胃ガン、大腸ガン、乳ガン、腹部大動脈瘤など、消化器・血管外科医として必要な手術の全てを豊富に経験した。97年より東京大学医学部第一外科(腫瘍外科・血管外科)に戻り、大学病院の臨床・研究スタッフとして後輩達を指導。

2000年に北青山Dクリニックを設立。下肢静脈瘤の日帰り手術他、外科医としてのスキルを生かした質の高い医療サービスの提供に励んでいる。


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