廃止寸前から人気路線に復活した「五能線」 再生のカギは“全員野球”の組織:地方創生のヒントがここにある(3/3 ページ)
観光列車ブームの火付け役となった「五能線」――。実はもともと廃止寸前の赤字路線だった。五能線を観光路線として復活させたJR秋田支社の取り組みから、地方企業活性化のヒントを探る。
全員が“当事者意識”を持つ組織を作る
では同社はどのように“全員野球”の組織を作り上げたのか。
遠藤氏によれば、同社は「ホールランを打てる人材はいなくても、シングルヒットを積み重ねる人材はいる」と考え、ヒットを連打する組織を作るために「My Project」(通称、マイプロ)というJR東日本全社で展開している制度を積極的に活用している。
My Projectは自分の関心があること(あるいは課題を感じていること)を仕事として取り組むことができる社員教育プログラム。ユニークなのは、“成果は求めず”主体的に動いたこと自体を評価することだ。
どんな小さなことでも、その社員の取り組みを評価し、モチベーション向上につなげる。例えば同社は「KOMACHI」という社内報を通じて、毎月100人以上の社員の取り組みを紹介している。これが「自分もこの社内報に載りたい」「自分も何かしよう」という意欲をかき立てる環境を生み出しているという。
こうして、社員が自ら課題を発見し、自発的に動くことによって“当時者意識”を持つことにつながり、組織全体の機動力が高めることができる。
例えば前述した「なまはげイベント」は、東能代運区(秋田県能代市)の新人車掌の提案で始まった。「青森県側では三味線や民謡などの車内イベントがあるのに秋田県側ではイベントがなくて寂しい」――。このような利用者の声をアンケートで知り、イベントを思い付いたという。車掌や運転士が自ら衣装を着て演じる「なまはげ」は観光客から大好評で、現在も毎回記念撮影の列ができるほどの人気コンテンツとなった。
他にも「リゾートしらかみ」のPRキャラクターや「五能線ガイドブック」など、さまざまなコンテンツがこのMy Projectによって生み出された。このように五能線は、小さなアイデアを一つずつ実現させていくことで(シングルヒットを積み重ねることで)徐々に人気観光路線へと生まれ変わっていったのだ。
短期的合理性ではなく、長期的合理性を考える
ビジネスの現場では「スピード」がとにかく重視される。成果を上げるスピートももちろん含まれる。しかし、スピードを意識するあまり、あまりにも短期的な合理性ばかり追求する「短期的合理主義」に陥ってしまう企業が増えてきていると遠藤氏は指摘する。
「経営としては、長期的に見て合理的なものを追求すべきなのに、短期での結果ばかりを追求してしまう風潮がある。その結果、長期的には不合理なことをやってしまう。例えば、人材育成への投資においては、長期で見れば、重要な戦力に育つ可能性があるのに、短期視点では手間暇がかかり、コストを生むだけ――と考えてしまう。設備投資でも同じことがいえる。これでは、会社は良くならない」(遠藤氏)
同社の取り組みでいえば、結果ではなくプロセスを評価するMy Projectは短期的には不合理に見える。五能線を観光路線に変えるという取り組み自体も短期的に見れば不合理かもしれない。鉄道を廃止して、バスなどに切り替えた方が短期間でコスト削減を実現できるからだ。しかし、短い時間軸だけで成果を求めず、長期的な合理性を追求した結果が、今日の五能線につながっているのだ。
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