社長が「将来」役員にしたい人:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(1/2 ページ)
「次世代リーダーの育成」は多くの企業にとって高い関心事である。彼らが持つべき要件とは何だろうか。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
ビジネス書の著者たちによる連載コーナー「ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術」バックナンバーへ。
日本人材ニュースが実施した企業の採用、育成・研修、組織力強化などを支援する専門家への調査では、2017年の人事の重要テーマ(複数回答)は、「次世代リーダーの育成」が70%で第1位となりました。では、目下最大の関心事である「次世代リーダー」。この人たちが持つべき要件とは何でしょうか?
私は、リーダーに求められるものは、つまるところ
(1)自分こそがかじ取りを担うという強烈な「責任感」と、ともに働く人たちと自らをも鼓舞することのできる「情熱」(静かな情熱もある)があること
(2)「組織が、これからどの方向に向かうのか」を確定し、判断の軸を明確にしていくこと。場合によっては修正すること。
ではないかと考えています。これは、社会学の泰斗 マックス・ウェーバーが「職業としての政治」で表した、リーダーとしての政治家に求められる3つの重要な資質「情熱、責任感、判断力」と重なります。さらに、いわゆる日本的な、人間関係を適切に構築し部下をやる気にさせるといったことの重要性について否定はしないものの、第一義的なものでないとも考えています。
その上で、本書では、(1)と(2)のレベルを高く持つことのできる可能性がある将来の役員候補者(30代中盤から40代前半くらいの年齢層)の、具体的なプロフィールを明らかにすることを試みてみました。
その方法としては、
1、コンサルタントとして企業とともに行ってきた候補者選抜の事例
2、各界の経営者からこんな人を将来経営者にしたいといわれた要件
3、公開事例の文献調査(主に、日経ビジネス人文庫 それでも社長になりましたを参照)などを、網羅的、総合的に判断しました。そして5分野25項目をピックアップしています。その内容は以下のようになります。
- 第一章 ものの見方
1、視野の拡大 2、価値観の理解 3、自社の位置づけの把握 4、時代変化の直観 5、持論の構築
- 第二章 ものの考え方
6、本質的な問題把握 7、法則性の発見 8、全体最適の思考 9、判断軸の重視 10、先進性の実践
- 第三章 良い仕事習慣
11、素早い実行 12、自然な変化対応 13、率直な発言 14、リスクへの備え 15、問題への対峙
- 第四章 良いコミュニケーション
16、部下への強い関心 17、影響力と誘導力の行使 18、モチベーションの発現 19、主体性と当事者意識 20、俳優的な演技
- 第五章 出世していく人の心の持ち方
21、感情の制御 22、メンタルタフネス 23、プレッシャーの選好 24、経験からの学習 25、運の引き寄せ
章立てを見ていただくたけで、ある程度、内容の想像ができるのではないかと思います。
具体的な仕事の場面でどう考え、いかに行動するか
よりリアルに中身をイメージしてもらうために一部を披露します。こちらは第一章の「1、視野の拡大」からの抜粋です。
(前略)
たとえば、これまで使ったことのない新しい材料を購入するという仕事が与えられた場合を考えてみよう。
最初に行うことは、いろいろな材料を探し、試すことであろう。つぎに、それらの代替品がどんな地域(国家)で取れるのか。安定供給は可能なのか、品質を安定させられる供給体制ができているのか。どんな工場で生産しているのか、その国のカントリーリスクはどうか。ロジスティックスは効率的か。通貨は何を使うか。現地の取引先企業のマネジメント体制は大丈夫か。相手側企業が政治関連の汚職に巻き込まれるような問題はないか。地域住民の仕事に向かう取り組む姿勢はどうか……。など、山のようにある検討課題に目を向ける。
もし自分のお金を賭けるオーナー社長だったら、当たり前のこととして、上記のようなことをすべて考える。そして伝聞情報だけでは危険なので、現地に足を運んで自分の目で確かめる。本気の仕事とはそのようなものだからである。
このとき、上記のような懸念事項を様々なルートを使って自ら調べ、いくつかの選択肢を用意して、自分なりの評価軸をもとにどの材料をどこから買うかを提案する社員と、ただ取引先(たとえば商社)に問い合わせて、相手に代表的な材料をよくあるスペックで評価づけさせ、「安くて良いものを見つけました、これで良いんじゃないでしょうか」で済ませようとする社員がいる。
その時、結果的に同じ材料が採用されるとしても、自らわざわざ調べた社員と、商社に評価表を出させただけで済ました社員では、3年後にはまったく別人になる。10年後には埋めることのできない差がつく。
前者なら当該国の治安が急変しても、すかさず代替品が調達できるだろう。調べていくプロセスの中で、他方面との人的ネットワークや対応の知恵が生まれているからだ。一方、後者なら、取引先(商社)に連絡して「どうにかしてくれ」と頼むことになるが、競合も含めて同じ行動をとるため、こちらが先方にとってよほどの得意先でない限り、代替品は自分のところには回ってこないだろう。
わざわざ調べる社員は、この一つの仕事の機会を通じて、あらゆることを学ぶ。材料そのものにも詳しくなり、某国の政情にも関心を持つ。通貨にも興味が出て、地域や国民性にも詳しくなる。組織マネジメントにも目を向ける。そして、これらのすべての情報が、自分と関係のある生きた知識として蓄積されるようになる。そうなれば新聞の片隅に出た当該国関連の小さなニュースも、街中でその材料が使われた商品が並んでいるのを見ても、それらの情報が自分に関係のある事として感じられるようになり、結果として視野が大きく広がり、いろいろなことが頭に閃くようになる。
このように「一つの仕事から、幅広く多様で統合的な知識を獲得する人」が、仕事で成果を収める人となる。
(後に続く)
といった内容です。
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