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繊維加工から土木資材メーカーに転身 創業100年の前田工繊の狙いポーター賞企業に学ぶ、ライバルに差をつける競争戦略(2/3 ページ)

公共事業の削減によって厳しい経営環境にある土木資材業界。そうした中で踏ん張り続けているのが、独立系企業の前田工繊である。効を奏した同社のユニークな戦略とは?

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多角化に舵を切れたわけ

大薗: 公共事業の市場が縮んでいく中、プレイヤーの数が減っていくのは必然的ですが、なぜ前田工繊は撤退せずにいられたのでしょうか。

一橋ICS 大薗恵美教授
一橋ICS 大薗恵美教授

前田: 競合には大企業の子会社が多かったので、公共事業予算の削減はインパクトが大きかったわけです。道路が駄目だから別の分野で事業を成長させようという意志はなかったようです。多角化への舵を切れた企業はほとんどありませんが、当社のような規模感のファミリー企業だから可能だったのかもしれません。

 大企業がほとんど撤退する中、2004年に当社は日本ゼオンの子会社であるゼオン環境資材の事業譲渡を受けました。そのほか、港湾やコンクリートメンテナンスなどの新規分野については、地方のメーカーを数社、M&Aをして経営を拡大していきました。

大薗: 事業譲渡やM&Aの相手を選ぶ際の基準は何ですか。

前田: 時代によって異なります。2000年に多角化を決めてから10年くらいは、基本的に当社が手掛ける土木事業と繊維加工事業の中で探して、経営統合してすぐに当社の営業網で商品を販売できるようにしました。

 2010年からは事業の幅を広げるため、土木以外の業界で大々的にやっている会社や、新しい業界に入るコネクションがあるような会社も判断基準に加えました。そこでBBSという車のアルミ鍛造ホイールを製造する会社を買収したり、いずれも買収して100%子会社としていた、北原電牧とグリーンシステムという2社を合併して、未来のアグリという農業関連の会社を設立したりしました。

大薗: なぜこれだけ前田工繊はダイナミックに変われるのですか。

前田: 絶えず前田家が経営しているので危機感があります。4〜5年で社長が代わるわけではなく、一代が数十年間務めるわけです。世の中の変化が早すぎる今、いかに業界や国の動きを追いながら変化にキャッチアップしていくかが重要です。新たな分野にどんどん入って、成長していかないと生き残れません。

 では、なぜ成長しなければならないのでしょうか。基本的に土木の事業は設計から入るわけですが、そのための人件費や外注費など、プロジェクトの初期にかかる金額は、毎年全社で2〜3億円に上ります。それが収益として戻ってくるのが、長いときでは10年後だったりするのです。さらに事業の性格上、新しい商品を開発してもリターンがあるまで10〜20年かかります。だから地道に成長してキャッシュを生んでいかないといけません。そうした危機感があるのです。

 土木資材メーカーはBtoC企業のようなスピード感はありません。ただし、商品が一度市場に受け入られると長く売れるのです。アデムは発売から28年間、ほぼ同じ原料、レシピで作っていますが、今後100年、200年と売れ続けるかもしれません。ただし、それだけでは成長はなくなります。ゼロにはならないけれども、今100ある売り上げが1000にはなりません。

大薗: グローバルで成長する手もあるのでは?

前田: 日本の災害の種類、量の多さは目を見張るものがあります。そのため防災に向けた日本の基準の高さは群を抜きます。その技術を東南アジアにも広めようと、2011年にベトナムに工場を作って営業を始めたり、当社の技術を基に現地の大学と共同研究したりしています。

 ただし注意すべきなのは、技術やノウハウなどの知的財産を他社に奪われないことです。繊維はどんどん装置産業になっていて、既に日本のポリエステルが中国勢に取って代わられています。装置さえ手に入れれば、どこでも同じようなものが作れるようになっているのが現状です。ある程度のアイデアがあれば誰でも参入できるようになってしまいました。そういった意味では、慎重に進めています。

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