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繊維加工から土木資材メーカーに転身 創業100年の前田工繊の狙いポーター賞企業に学ぶ、ライバルに差をつける競争戦略(3/3 ページ)

公共事業の削減によって厳しい経営環境にある土木資材業界。そうした中で踏ん張り続けているのが、独立系企業の前田工繊である。効を奏した同社のユニークな戦略とは?

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20〜30年も営業担当が変わらない

大薗: 土木資材メーカーとしての前田工繊が他社と違うのは、セールスエンジニアが案件のすべてを担当する点です。これはなぜでしょうか。

前田: 土木は通常、設計から始まり、コンサルタントがそれを役所に提出し、役所が設計を基に工事をゼネコンに発注します。完成後、定期点検で問題があったときや、被災したときにはメンテナンスが入るという流れです。ほかの土木資材メーカーは、コンサルタント対応、ゼネコン対応、メンテナンス対応と、それぞれに担当者が異なるケースが多いと思います。

 それに対して、前田工繊では一人の担当者が一気通貫で行います。これは顧客にとって効率が良いからです。こうした担当者を全国に配備するため、地方出身者の採用を積極的に行い、転勤は極力減らそうとしています。すると、当社には20〜30年、同じ場所で営業している人間がたくさんいるわけです。彼らは各案件の歴史的経緯を含めてすべて把握しているので、顧客に効果的なサービスが提供できるようになるのです。

 他社がこれを真似できないのは、会社の都合で組織が頻繁に変わるケースが多いからではないでしょうか。

大薗: 一般的に企業が人事異動をするのは、1つは違う場所でチャレンジさせることで社員が伸びる可能性があること、もう1つはモニタリングのためです。例えば、取引先と癒着があっても、次の担当者に代わったときに露見するからです。20〜30年も同じ担当者というのは、悪い方向に傾けば馴れ合いが起きるかもしれません。あるいは、自分の成長に限界を感じてしまうこともあるのではないでしょうか。

前田: 確かに、同じ商品を長期間やっていたら癒着が生まれたり、問題が起きたりすると思います。成長の限界も感じるでしょう。ただし、当社は事業の多角化によって、毎年新しい会社とくっついたり、商品が増えたりするので、セールスエンジニアは常に勉強しないといけません。また、商品が変わることで、顧客も次々変わっていきます。自然とそうした仕組みになっているので、懸念される事態は起きないと思います。

大薗: 「前田工繊は混ぜる会社」だという経営ビジョンを掲げていますね。

前田: 買収した会社の人と技術を混ぜることでイノベーションが生まれています。例えば、不織布(繊維を織らずに絡み合わせたシート状のもの)の会社と緑化の会社の技術をかけ合わせて、斜面の浸食を防止するシートを開発しました。降水による斜面の浸食が全国的に問題になっている中、それを解決する商品を作り、既に前田工繊の営業マンが全国で売り始めています。混ざり合わずにそれぞれの会社のままだったら、きっとこうした商品は生まれませんでした。今後も、社内版オープンイノベーションで、新しい付加価値を作っていきたいと思います。

大薗: 本日はありがとうございました。

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